妻と愛人と家族

二人の暮らしのバランス

「二人の暮らしのバランス」

夫の翔太は几帳面で、掃除や片付けが習慣のように体に染みついていた。仕事から帰ると、すぐにスーツをきちんとハンガーにかけ、脱いだ靴下も洗濯かごにまっすぐ入れる。掃除機やモップの使い方も手慣れたもので、家の中にはいつも整然とした空気が漂っていた。

一方で、妻の紗季は、掃除があまり得意ではなかった。幼い頃から自由な家庭で育ち、家事や掃除にこだわることが少なく、どちらかというと、少々散らかっていても気にならない性格だった。そんな彼女も結婚生活を始めてからは、翔太の影響で少しずつ片付ける習慣を身につけていったが、完璧とは言えない。

「もう少しこの辺りを片付けた方が気持ちよくなるんじゃないかな？」翔太が優しく言ったのは、結婚して間もない頃のことだ。

「わかってるんだけど、ついつい後回しにしちゃうんだよね。」紗季は照れ笑いを浮かべながら答えた。

翔太は、掃除が苦手な紗季を責めたりはしなかった。むしろ、彼女が少しずつ成長していくのを温かく見守りながら、時には手伝ったり、時には自分が先に掃除を済ませておいたりしていた。

そんな彼らの生活の中で、ある日、事件が起きた。翔太が突然、仕事の出張で一週間家を空けることになったのだ。家事全般を普段から手際よくこなしていた彼がいない間、紗季がひとりで家をきれいに保てるのか、少し不安がよぎった。

「大丈夫かな…翔太が帰ってきた時、あまり汚れてたら嫌がられるかも…」

心配しながらも、紗季は決意した。これを機に、自分も掃除や片付けをちゃんとできるようになりたいと思ったのだ。そして、週末には、翔太がいつも使っている掃除道具を手に取り、部屋を一つずつ丁寧に片付け始めた。

リビングの床を拭き、棚の埃を払うと、そこには思った以上の達成感があった。少し疲れたが、部屋が少しずつ整っていく様子を見て、彼女は心の中で喜びを感じた。

「掃除って、こんなに達成感があるんだな…」

一週間が過ぎ、翔太が帰ってきた時、紗季の努力は部屋中に表れていた。部屋はきれいに片付いていて、テーブルの上には、彼の好きな料理が温かいまま準備されていた。驚きながら部屋に入った翔太は、何度も部屋を見回し、紗季に微笑んだ。

「わあ、こんなにきれいにしてくれてたんだね。ありがとう、紗季。」

その言葉に、紗季は少し照れくさそうに笑った。掃除が苦手な自分でも、頑張ればここまでできるのだと、自信がついた瞬間だった。

その後、二人は一緒に掃除の方法や手順を話し合いながら、さらに効率よく家を保つためのルールを作ることにした。翔太は紗季が掃除を楽しめるように、いくつかのコツや裏技を教え、無理のないペースで進めることを勧めた。

「掃除も、料理みたいに少しずつ楽しんでやっていけたらいいと思うよ。」翔太は優しく語りかけた。

それからというもの、二人の生活は新たなバランスを見つけていった。完璧を求めすぎるのではなく、お互いの得意なことを活かしながら、少しずつ助け合う関係になっていった。紗季は料理の腕を活かして、毎日の食卓に彩りを添えることに力を入れ、翔太は掃除や整理整頓で生活を快適に保つ工夫を続けた。

こうして、二人の暮らしは少しずつ馴染んでいき、同じ時間を共有することの大切さと、お互いの違いを受け入れることの大切さを改めて感じるようになった。

二人が一緒にいる理由は、完璧な掃除や片付けのためではない。お互いが少しずつ歩み寄り、生活を共にする中で、新たな価値観や楽しみを見つけることが、彼らの結婚生活の本質だった。