妻と愛人と家族

春秋花壇

文字の大きさ
上 下
927 / 1,232

東京・六義園の夜、家族で訪れる庭紅葉の特別観賞

しおりを挟む
【東京・六義園の夜、家族で訪れる庭紅葉の特別観賞】

11月の終わり、私たち家族は六義園の夜間特別開園に訪れた。この日は、紅葉がライトアップされると聞き、子どもたちが「夜にお出かけしたい!」と大喜びだった。普段は決して遅くまで出歩くことはないけれど、この時期だけの特別な紅葉を家族みんなで見に行きたくなった。

六義園に着いた頃には、すっかり日が沈み、冷たい空気が手足にしみる。温かい上着に包まれて、私たちは家族で肩を寄せ合いながら入口をくぐった。すぐに、目の前に広がるライトアップされた庭園が私たちを出迎え、その景色に息を呑んだ。

闇夜に浮かび上がる紅葉が照らされ、庭全体が鮮やかな朱や黄金色に染まっていた。その光景は、昼間見る紅葉とはまるで異なり、夢のような美しさだった。子どもたちも「わぁ、すごい!まるでおとぎ話みたい!」と目を輝かせている。

まずは、土蔵の壁面に投影された映像の前で足を止めた。壁面に映し出される映像は、風に揺れる紅葉が再現されている。まるで絵本の一場面が目の前で動いているようで、私たちは思わず立ち尽くしてしまった。特に次男は、その美しい映像に見入っていた。彼はアニメや映像作品が好きで、いつも「将来はアニメーションの仕事をしたい」と言っている。彼の夢が少しでも広がるようにと、しばらく彼にその場を独占させた。

庭を歩き進めると、フォトジェニックな撮影スポットがいくつも現れる。真っ赤に染まったもみじが浮かぶ池のほとりで、家族写真を撮ることにした。カメラを三脚に固定し、セルフタイマーをセットして、私たちは紅葉を背景に並んだ。タイマーがカウントダウンを始めると、「笑って!」と娘がはしゃいで言う。その一言に皆が笑顔になり、シャッターが切られた。

園内を散策するうち、父が「ここは昔からある庭園なんだよ」と静かに話し始めた。六義園は江戸時代に造られた大名庭園で、長い歴史を経ていまに至るという。父は幼い頃に祖父に連れて来てもらった思い出があるらしい。普段は多くを語らない父が、こうして自分の記憶を私たちに話してくれることが嬉しく、少し不思議な気持ちにもなった。

私たちは最後に、池のほとりに設置されたベンチでしばらく休憩することにした。子どもたちは夢中で見つめているが、もう夜も更けているせいか、少し眠そうな様子だ。私たちはそれぞれに感想を言い合いながら、秋の夜のひとときを噛み締めた。

帰り道、私たちは六義園の幻想的な光景を背にした。車に乗り込んで園を後にすると、子どもたちは疲れもあってすぐに眠ってしまった。夫と二人、静かになった車内で、「来年もまたこの時期に来ようね」と話した。きっとこの紅葉の景色は子どもたちの心にも残り、いつか大人になったときに、私たちがそうであったように、自分の子どもと再び訪れるかもしれない。

家に戻り、眠る子どもたちの寝顔を見ながら、あの美しい夜の六義園の風景が瞼の裏に浮かんだ。家族で一緒に過ごしたこの秋の夜が、私たちの心にいつまでも鮮やかに残り続けるのだろう。









しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...