妻と愛人と家族

面会

面会

彼女の名前は和美。45歳の主婦であり、二人の子どもを持つ母親だった。だが、彼女の生活は一変した。長男の拓海が、同級生を殺してしまったのだ。ニュースで流れる彼の顔が映し出される度、和美の心は痛む。誰もが恐れ、忌み嫌う存在になってしまった息子を、母親としてどう受け入れればいいのか悩む日々が続いていた。

拓海は高校一年生、明るく、人懐っこい性格の少年だった。だが、心の奥に秘めた孤独と葛藤は誰にも気づかれず、彼はいつの間にか追い詰められていた。ある日、友人たちとの些細なトラブルがエスカレートし、取り返しのつかない結果を招いた。母親の和美は、どんなに助けようとしても、息子は自分を見失っていた。

「拓海、あなたは私の子どもよ。どんなことがあっても、私はあなたを信じているわ」と、和美は警察に連れて行かれる彼を見つめながら心の中でつぶやいた。

彼は少年院に送られ、和美は面会を許されることになった。面会の日、和美は心を決めてその場所に向かった。重い扉を開けると、冷たい空気が彼女を包み込む。中に入ると、息子がガラス越しに待っていた。彼の顔はやつれ、眼には焦燥感が浮かんでいた。

「お母さん…」拓海の声は、どこか遠くから聞こえてくるようだった。

和美は一瞬ためらったが、彼の存在を感じながら思わず涙が溢れた。「拓海、私はここにいるよ。あなたを信じているから、頑張ってね。」

彼との面会は、毎週続いた。和美は、拓海が本当に反省しているのかを見極めようとした。面会を重ねるうちに、彼の心の中にある苦悩を少しずつ理解するようになっていった。拓海は自分がしたことを深く悔いていたが、同時にその重圧に押しつぶされそうになっていた。

「お母さん、僕はどうしてこんなことをしたんだろう。僕は悪い人間なんだ…」彼の言葉は、いつも暗い影を帯びていた。

「拓海、あなたは間違った選択をしただけ。あなたは悪い人間なんかじゃない。これからの人生で、ちゃんと立ち直ることができるはずよ。」和美は彼の手を握りしめ、優しく語りかけた。

面会を続けるうちに、彼女の中には、少しずつではあるが希望の光が差し込んできた。拓海の目には、かつての明るさが戻りつつあった。彼は自分の過ちを認め、それを乗り越えようとしていた。

ある日、和美は思い切って拓海に言った。「あなたが出所した後、私たちの新しい生活を考えましょう。一緒にやり直そう。」

拓海は驚いた顔をした後、思わず涙を流した。「お母さん、ありがとう…でも、僕は本当に人を傷つけた。もう戻れないかもしれない。」

「いいえ、あなたにはまだ未来がある。私たちが一緒に歩んでいけば、必ず道は開けるわ。」彼女は彼の目を見つめ、強い意志を示した。

それから数ヶ月後、拓海は少年院を卒業し、社会に戻ることになった。和美は、彼を迎える準備をしていた。彼女は自分自身に言い聞かせる。「息子が戻ってくる。彼がもう一度、自分を取り戻せるように支えてあげるんだ。」

出所の日、和美は心を躍らせながら拓海を待った。彼が姿を現した瞬間、和美は全身で彼を抱きしめた。「おかえり、拓海。」

拓海は少し緊張した面持ちだったが、母の温もりを感じた瞬間、心の奥で何かが解けたように感じた。「お母さん、ありがとう。僕、頑張るから。」

その後、二人は新しい生活を始めた。拓海は仕事を探し、和美は彼を支えながら、日常の中で少しずつ自信を取り戻していった。道のりは決して簡単ではなかったが、互いに信じ合い、支え合うことで、彼らは少しずつ前に進んでいった。

世間は拓海を冷たい目で見ることもあったが、和美はそれに屈しなかった。彼女は、自分の息子を信じて、これからも面会を続けるつもりでいた。彼女の中には、たとえどんな困難が待ち受けていようとも、拓海と共に新しい未来を切り開いていくという決意があった。母として、彼の人生に寄り添い続けること。それが、和美にとっての尊厳だった。