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春秋花壇

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宮島の秋、家族の時間

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「宮島の秋、家族の時間」

「今日は宮島で紅葉を楽しもうか」と父が言い出し、朝早くから家族みんなで広島駅に向かった。11月の休日、宮島の紅葉谷公園で過ごす計画だ。私たち家族には、毎年この時期に紅葉を楽しむという小さな恒例行事がある。

「秋の宮島か…いいね。紅葉もそろそろ見ごろだし」母も、ここぞとばかりに嬉しそうだ。観光客が多くなる前にと思い、早朝から家を出たのは正解だった。広島駅から宮島口まで電車で約30分、そこからフェリーで宮島に渡る。この一連の旅路も、家族みんなで過ごす秋の楽しみのひとつだ。

フェリーを降り、すでに厳島神社に向かう観光客の姿がちらほら見えた。道沿いに立つお土産屋や小さなカフェの賑やかな様子に、観光地としての活気を感じる。

「紅葉谷公園までは歩いてすぐみたいだね」と父がスマートフォンの地図を見ながら言う。神社を過ぎて5分ほど歩くと、木々の葉が赤や黄色に染まった紅葉谷公園に到着した。公園内はどこを見ても美しい紅葉が広がり、まるで色彩のパレットの中にいるかのようだ。さらに異国から来た観光客も多く、どこの国にいるのか一瞬わからなくなるほど。

「写真、撮りましょうか?」英語の堪能な妹が、アメリカから来たというカップルのために写真を撮ってあげる。妹は中学から英語が得意で、外国人観光客とすぐに打ち解けているのが微笑ましい。

しばらくすると公園内のカフェが開店し、軽く休憩を取ることにした。ガラス張りの窓から見える紅葉は、朝日に照らされて幻想的に輝き、心まで清められるような気がする。母が温かい抹茶を頼み、父は家族全員分の紅葉饅頭を手にして、カフェの一角に腰を下ろした。

「ここでこんなふうに過ごせるのも、毎年恒例にしているからだよな」と父がしみじみと呟く。母も頷きながら、「家族で季節の行事を楽しめるなんて、幸せよね」と微笑む。外の紅葉が美しいのはもちろんだけれど、こうして家族みんなで集まって過ごせる時間が何よりの宝物だと感じる。

カフェでのんびりしてから、再び紅葉のトンネルを歩き始めた。木漏れ日が葉の隙間からこぼれ、地面に美しい模様を作っている。絨毯のように積もった紅葉の葉を踏みしめながら、何とも言えない優雅な気分に包まれる。

公園内を歩きながら、妹がふと「この紅葉、夜にライトアップされるとまた違った雰囲気になるんだろうね」と言った。確かに、夕暮れからライトアップが始まると聞いたけれど、それを楽しむにはまだ時間がある。

「お腹も空いたし、お昼ご飯にしようか?」と母が提案すると、みんなで公園内の広場に座って早めの昼食を取ることにした。父が用意してくれた弁当には、秋の味覚がぎっしりと詰まっている。きのこの炊き込みご飯、栗の甘露煮、そして秋鮭の焼き物…。一口食べるごとに、宮島の紅葉に負けない秋の香りが口いっぱいに広がり、家族の笑顔もほころぶ。

昼食を終え、午後の紅葉を楽しみながら再び公園内を散策する。公園の端まで進むと、小さな滝が流れている場所があり、その脇にある石のベンチに腰を下ろした。

「昔、私も若い頃にここで紅葉を見たことがあるのよ」と母が思い出すように語り始める。若い頃の母も、この場所で秋の景色を眺めていたと思うと、なんだか感慨深いものがある。両親がこうして家族で紅葉狩りを提案してくれたのも、昔の記憶がどこかにあるからかもしれない。

しばらく紅葉谷公園を満喫し、夕方が近づく頃、そろそろライトアップが始まる時間だ。秋の日はすぐに傾き、あたりは薄暗くなってきた。

ライトが点灯し、公園内は一変する。昼間とは異なる幽玄な雰囲気に包まれ、赤く染まった紅葉が、まるで幻想の中にいるかのように輝く。木々の影がゆらゆらと揺れ、まるで秋の妖精がそこに佇んでいるかのようだ。

「綺麗だね」妹がぽつりと呟く。家族みんなでしばらくライトアップされた紅葉を眺め、時を忘れて見入ってしまう。

「また来年も、こうして見に来ようね」と父が言い、私たちはゆっくりと公園を後にした。この一年に一度の秋のひとときが、家族の心に温かな思い出として刻まれていく。






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