妻と愛人と家族

黄金色の休日

「黄金色の休日」

10月最後の日曜日、都心の風が少しずつ冷たくなり、秋が深まってきたのを感じる。僕たち家族は銀座での買い物を楽しんだ後、「行幸通り」のイチョウ並木を見に東京駅まで歩くことにした。

「今日はどこか遠出しようかとも思ったけど、都内も秋らしくなってきてるし、たまには街でのんびりするのもいいよね」と妻の美咲が楽しそうに言う。彼女が楽しみにしているのは、この時期に色づき始める銀杏の並木道だ。僕も忙しい日々の中で、こうして家族と過ごす穏やかな時間をとても楽しみにしていた。

銀座から皇居前まで歩くと、やがて黄金色に輝くイチョウ並木が見えてきた。行幸通りには、秋を楽しむ家族連れやカップルが行き交い、道は賑やかな笑顔で溢れている。澄んだ青空と黄金色の葉のコントラストが見事で、少し冷えた空気の中にも温かなぬくもりを感じた。

「パパ、見て！葉っぱが全部黄色になってる！」小学生の娘、絵里奈が目を輝かせてイチョウの木を指差す。僕も見上げてみると、鮮やかな黄色に染まった葉が風に揺れていた。時折、ひらひらと舞い落ちる葉が道に積もって、小さな黄色い絨毯を作り上げている。

「すごいね。これだけ黄色が広がると、まるで別世界みたいだね」と僕が言うと、絵里奈は「そうだね！魔法みたい！」と無邪気に笑った。その横で、美咲が小さくカメラを構え、家族の様子や風景を写真に収めている。

しばらく歩きながら、落ち葉で遊ぶ娘を見ていると、少しずつ日が傾いていく。夕方の斜陽が、イチョウの葉をさらに輝かせ、街全体が柔らかなオレンジ色に包まれていく。歩道には露店が並び、焼き芋や温かいお茶の香りが漂っていた。

「ちょっと休憩しようか？」僕は美咲に提案し、近くのベンチに腰を下ろした。温かいお茶を買って、みんなで一息つく。冷えた手を温めるその一杯の湯気が、どこか心まで癒してくれるようだった。

「こうやって、秋を感じながら家族でゆっくりする時間って、本当に幸せだね」と美咲が微笑む。普段は忙しい彼女も、今日はいつもよりリラックスした表情をしている。仕事と家事の合間に、こうして季節を感じられるのは贅沢な時間だ。

絵里奈は飽きることなく、葉っぱを拾って遊んでいる。その無邪気な姿を見ていると、自分たちも少し前まで子供だったことを思い出し、なんだか懐かしい気持ちになる。

「パパ、見て！ハートの形の葉っぱ見つけた！」絵里奈が嬉しそうに小さな黄色の葉っぱを見せてくれる。確かに、少し歪な形ではあるけれど、まるでハートのように見える。僕はその葉を受け取り、丁寧にカバンにしまった。

そのまま東京駅の方へ向かって歩き、丸の内口に到着すると、歴史的な駅舎が夕日に照らされて美しく輝いていた。東京駅の周りは高層ビルに囲まれ、まるで時代が混じり合っているような独特の風景だ。駅舎のライトが点灯されると、さらに荘厳さが増し、行き交う人々も足を止めてその姿に見入っている。

「東京って、こうして見るとすごくきれいな街なんだね」美咲がぽつりと呟く。忙しさの中では忘れがちな都心の美しさが、今日の穏やかなひとときの中でしみじみと感じられた。

家族でゆっくりと行幸通りを散策し、黄金色の並木道を楽しんだ日曜日の夕暮れ。こうした何気ない時間が、何よりもかけがえのない思い出になっていく気がした。