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いじめのこと~動きたくても動けないのはなぜ?

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いじめのこと~動きたくても動けないのはなぜ?

春の陽射しがやわらかくなり始めたある日、桜の花が満開の中、川崎家のリビングでは、父の敏夫(としお)、母の美恵子(みえこ)、そして中学生のひなたがソファに並んで座っていた。テレビの画面には、いじめについてのドキュメンタリー番組が流れていた。ひなたは、自分の友人であるちほのことを思い出しながら、何か言いたげに口を開いた。

「お母さん、最近ちほが元気ない気がする。何かあったのかな?」

敏夫がリモコンを持ったまま振り返り、「どうしてそう思うんだ?」と尋ねた。ひなたは少し考えてから答えた。

「授業中に、ちほがぼんやりしていることが多いし、友達と話すときも前ほど楽しそうじゃない。何か悩んでるんじゃないかなって…」

美恵子は、ひなたの言葉を聞きながら目を細めた。「ひなた、ちほと最近話した?彼女が何か困っていることを感じたなら、話しかけてみたら?」

「でも、どうやって?」ひなたは首を傾げた。「私もいじめのことについて知ってるけど、もしちほが言わなかったら、どうしたらいいかわからない。」

その言葉を聞いた敏夫は、真剣な表情で話を続けた。「いじめにあう子は、助けを求めるのが難しいことが多いんだ。周囲に対して動きたくても、動けない理由があるから。たとえば、恐れや孤独感、あるいは助けを求めることへの恥ずかしさなんかがね。」

美恵子は頷きながら、「それに、いじめを受けている子は、自分の気持ちをどう伝えたらいいのか分からなくなってしまうことがあるの。だから、私たちがサポートしてあげることが大切だと思うの」と加えた。

ひなたはしばらく黙って考えた後、言葉を続けた。「私も、ちほを助けたい。でも、どうやって声をかけたらいいのか…怖い気持ちもある。」

「わかるよ、その気持ち。私もそうだった。特に親しい友達が困っているときは、何かを言うのが難しい。でも、もしかしたら、ただ『大丈夫?』って声をかけるだけでも、彼女にとって大きな助けになるかもしれない」と美恵子が優しく励ました。

その言葉に勇気をもらったひなたは、今の自分にできることを考え始めた。「じゃあ、まずはちほに直接聞いてみる。それから、もし本当に何かあったら、私が親や先生に話すこともできるよね。」

敏夫は微笑みながら、「そうだね。それができれば、ちほも安心すると思うよ。君が行動を起こすことで、彼女も気持ちを楽にできるかもしれないから」と話した。

ドキュメンタリーは、いじめにあう子供たちの実体験を紹介し続けていた。映像の中で、子どもたちが自分の気持ちを打ち明けるシーンは、ひなたにとってとても胸を打たれるものだった。「やっぱり、私も彼女に勇気を与えてあげたいな」と心の中で決意した。

番組が終わると、ひなたはさっそくちほに連絡を取ることにした。彼女の心はドキドキしながらも、何かを伝える決意で満ちていた。携帯を握りしめながら、「ちほ、少し話したいことがあるんだけど、今大丈夫?」とメッセージを送った。

しばらくして、ちほから返信が返ってきた。「うん、大丈夫だよ。何かあったの?」その一言に、ひなたはほっとしたような気持ちとともに、不安が少し和らいだ。

「学校で最近どう?元気?」とひなたは問いかけた。

「うーん、まあまあかな。でも、ちょっと疲れてるかな」とちほの返事が返ってくる。ひなたは、その言葉から彼女の心の重さを感じ取った。

「なんかあったら、いつでも言ってね。私はちほの味方だから」と優しく言葉を送り、ひなたはちほの反応を待った。

すると、しばらくしてから「ありがとう、ひなた。実は、最近ちょっと…友達と上手くいかなくて」と打ち明けるちほのメッセージが届いた。ひなたは、彼女が言葉を口にするのを待っていたことに嬉しさを感じながら、彼女の気持ちに寄り添うことに決めた。

「それって、いじめのこと?」と尋ねると、ちほは少し時間を置いてから返事をした。「うん、実はそう。私、学校で何度か言われたことがあって…でも、誰にも言えなくて」

その言葉を見て、ひなたは思わず涙が出そうになった。彼女は、いじめについて話すことができなかったちほの苦しみを理解し、どうにかして彼女を助けたいという思いが湧き上がった。

「私も一緒に考えるから、心配しないで。私たち、何かできることを見つけよう」とひなたは返した。

その後、ひなたはちほと何度もメッセージをやり取りしながら、彼女の気持ちを少しずつ引き出すことができた。そして、彼女の心の中にある不安や恐れを少しでも軽くする手助けをすることができた。

数日後、ひなたはちほを学校で見かけた。彼女の目には以前よりも明るさが戻っているように見えた。ひなたはちほに近づき、「元気になったみたいだね」と笑顔で言った。

ちほは驚いた表情を浮かべながらも、少し笑顔を見せ、「うん、ひなたと話せたおかげかも」と言った。ひなたは、ちほの笑顔を見て自分も嬉しくなり、彼女に手を差し出した。

「これからも、何かあったら私に話してね。私たちは友達だから」と優しく言った。ちほはその言葉に頷き、二人の絆がさらに深まったことを感じた。

家に帰る途中、ひなたは心が温かくなるのを感じながら、両親に今日の出来事を話した。「ちほに勇気を持たせてあげることができたと思う。これからも彼女を支えていきたい」と言った。

美恵子は微笑みながら、「あなたが行動を起こしたことで、ちほも前に進む力を得たのね。素晴らしいわ」と褒めた。

敏夫も頷き、「これからも友達を大切にし続けることが大事だよ。いじめに対する理解を深めることが、もっと多くの子どもたちを助けることにつながるから」と話した。

ひなたは、両親の言葉に背中を押される思いで、さらに友達を大切にすることを心に誓った。苦しい時期を共に乗り越え、心をつなげることができたことを喜び、彼女自身の成長を感じていた。

この出来事を通じて、家族の絆もより一層深まり、互いに支え合うことの大切さを学んでいくのであった。これからも、彼女たちは共に歩み続け、どんな困難にも立ち向かう勇気を持つことを誓ったのだった。






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