妻と愛人と家族

二世帯のハーモニー

二世帯のハーモニー

この生活に満足していたのは私だけなのかもしれない。義父も義母も、いつの間にか頻繁に友達を呼ぶようになっていた。完全分離型住宅とはいえ、私たちの生活のすぐそばに他人がいる状況が増えていった。

最初はたまの来客だと思っていたが、週に数回のペースで誰かが訪れるようになった。義父の友達がやってきてはリビングで将棋を指し、義母は近所の友人とおしゃべりを楽しんでいた。声が聞こえるだけであれば、それほど気にならなかったが、次第にその人数が増え、滞在時間も長くなっていく。時には夕方遅くまで話し込むこともあり、まるで別荘地の集会所のような雰囲気になっていた。

完全分離型の二世帯住宅だからこそ、私たちは干渉されないはずだった。しかし、玄関やキッチンが別々だとしても、生活の音や声が伝わってくる。家族だけの静かな時間を過ごそうと、2階のリビングで夫と子どもたちと一緒に夕食を食べていても、下の階から義父の笑い声や義母たちの談笑が響いてくる。

ある日、仕事から帰ってきた私は、2階に上がる階段で大勢の靴が玄関に並んでいるのを見て立ち止まった。義父の友人たちがまた集まっているらしい。リビングに戻ると、夫も黙ってソファに座り、新聞を読むふりをしているが、その顔は少し疲れているようだった。

「今日も下、賑やかだね」と私は言いかけたが、夫は無言で首を振った。

「気にしなくていいよ。別々の生活なんだから、干渉しないのが約束だろ？」彼の言葉には、少しの苛立ちが滲んでいた。

確かに、完全分離型とはいっても、こうして他人の出入りが頻繁だと、私たちの生活も無意識に影響を受けてしまう。静かな夜を過ごすつもりが、賑やかな声に邪魔されて、子どもたちが宿題に集中できないこともある。

翌週の日曜、私は子どもたちを連れて、義父母に話をする決意をした。2階のリビングから聞こえる笑い声に耐えきれず、下に降りていくと、義母が友人たちとキッチンでお茶をしながらおしゃべりをしていた。

「お義母さん、ちょっとお話ししたいんですが、よろしいですか？」私はできるだけ穏やかな声で言った。

義母は少し驚いた顔をしたが、友人たちに一言断って、リビングの隅に私を連れて行った。

「最近、友人たちがよく来ているみたいですね。もちろん、私たちも完全分離型だから、お互いの生活には口出ししないつもりです。ただ、もう少し静かな時間もほしいなって思うんです。特に夕方とか…」

義母はしばらく私の顔をじっと見つめたあと、ため息をついた。

「そうね、わかるわよ。でもね、あの人たちも年を取って、家にこもりがちになると寂しくなるのよ。私たちもそう。子どもたちが成長して独立してから、この家に二人きりでいることが増えて、何かしないと孤独に押しつぶされそうで…」

その言葉には、深い孤独感と切実さが感じられた。義母たちは、友人たちとの時間を唯一の生きがいにしていたのだ。私たちが静かで落ち着いた時間を望んでいたのと同じくらい、義父母は賑やかさを求めていた。

その夜、私は夫と話し合った。義両親に理解を示す一方で、私たち自身の生活リズムも大切にしたい。そのためのバランスをどう取るべきか、考えを巡らせた。

翌日、私は再び義母に提案した。「お義母さん、こんな風にしてみませんか？例えば、友人を呼ぶ日は週に決めた日にして、時間も決めるとか。そうすれば、私たちも準備ができるし、子どもたちも静かに過ごせる時間を確保できると思うんです」

義母はしばらく考え込んでいたが、やがて頷いた。「そうね、それも悪くないかもしれない」

こうして、私たちはお互いの生活を尊重し合いながら、少しずつ調整を重ねた。義母たちは友人たちとの交流を楽しみつつ、私たちの静かな時間も守られるようになった。

完全分離型の二世帯住宅での生活は、単に物理的な距離を保つだけではなく、心の距離も適切に調整することが大切だった。それには時間と話し合いが必要だが、お互いを理解し合うことで、穏やかで心地よい暮らしが実現する。