妻と愛人と家族

春秋花壇

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二世帯住宅完全分離型生活マニュアル

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「二世帯住宅完全分離型生活マニュアル」

家を建てることになったとき、夫と私は二世帯住宅にするかどうかでずいぶん悩んだ。義両親が年を取ってきたこともあり、彼らのために一緒に住む選択肢が現実味を帯びてきたからだ。しかし、気まずい距離感やお互いの生活習慣の違いから生じるトラブルを想像すると、心の中に引っかかるものがあった。

「完全分離型にしよう」と夫が提案したのは、そんな迷いが最高潮に達したときだった。「玄関もキッチンも別。だから干渉は最小限。お互いに自由に暮らせるよ」

その言葉に少し安心した私は、最終的に賛成した。義両親との近すぎず遠すぎない関係が築けるかもしれない、そう期待しながら。

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家が完成して半年が経ち、私たち家族はその完全分離型二世帯住宅での生活をそれなりに楽しんでいた。夫と子どもたちと私は2階部分に住み、1階には義両親が暮らしている。玄関も階段も別なので、日常的には顔を合わせることは少ない。お互いに自由に生活できるという点で、この形式は成功しているように思えた。

それでも、最初のうちはやはり少しぎこちなかった。義母が夕食の時間に突然何かを届けに来たり、洗濯物の干し方について口出しされたりすることが何度かあった。「分離型っていっても、完全には分かれてないんだな」と感じる瞬間が続いた。

そこで、ある日私は「二世帯住宅完全分離型生活マニュアル」というものを作ってみることにした。マニュアルといっても、家族全員で守るべき生活ルールをまとめたシンプルなものだ。お互いのプライバシーを守るために、具体的な約束事を作っておくことで、トラブルを未然に防げるのではないかと考えたのだ。

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最初に決めたのは、「訪問は必ず事前に連絡を入れること」。義母が何かを届けに来るのはありがたいが、突然来られると心の準備ができない。「急に来られると困る時もあるので、連絡してくださいね」と、私は笑顔でお願いした。義母は少し驚いた顔をしたが、「ああ、そうね」と返事をした。

次に決めたのは、「食事は基本的に別々にすること」。義母が頻繁に「一緒にご飯を食べましょう」と誘ってくれるのは嬉しかったが、それが習慣化すると、私たちの家族だけの時間が奪われる気がしていた。なので「今日は家族だけで過ごしたい」と丁寧に断るようにした。義父も義母も理解してくれたが、少し寂しそうな表情を見せることもあった。

「お互いの生活を尊重し合う」という大前提のもと、こうしたルールを少しずつ作り上げていった。義両親の世話を必要以上に押しつけられることもなく、私たちも逆に頼りすぎることはないようにした。たとえば、子どもたちが遊びに行く際は必ず「遊んでもいいですか?」と確認する習慣をつけた。突然押しかけられて疲れることがないよう、義両親にも安心感を与えるためだ。

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そんな生活がしばらく続いたある日、義父が私にそっと話しかけてきた。

「ねぇ、あんた。分離型っていってもさ、やっぱり寂しいこともあるんだよな」

彼の言葉には深い思いがこもっていた。義父母は年を取ってきて、特に夕方になると家の中が静まり返るのが辛く感じるようだった。子どもたちの声が聞こえると、賑やかさが戻ってくるのでほっとするが、普段は静かだと言う。

「そうですね。じゃあ、週に一度、一緒にお茶でもしましょうか?」と提案してみた。

義父はその提案に嬉しそうに頷いた。「それくらいがちょうどいいかもしれないな」

私たちは完全分離型の生活に適応していたが、それでも家族という繋がりは大切にしなければならないと感じた。プライバシーを守りながらも、孤立しないためのバランスが必要だった。

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それからというもの、週に一度、私たちは義両親と一緒にお茶をするようになった。特に決まったことはしないが、ただリビングでお茶を飲みながら、近況報告をしあったり、孫の成長を見せたりする時間が心地よかった。義両親にとっても、私たちにとっても、負担にならない程度のコミュニケーションが、結果的には関係を良好に保つための大切な要素だった。

完全分離型の二世帯住宅は、距離感を保つことで確かにトラブルを減らすことができた。しかし、心の距離まで完全に分ける必要はないと気づいた。お互いの生活を尊重しながらも、時には助け合い、時には一緒に時間を過ごす。それこそが、家族として共に暮らす意味なのかもしれない。

今日もまた、母と私はリンゴジャムを作りながら、二世帯住宅での生活について話し合った。

「やっぱり、これがちょうどいい距離感だよね」と母が言う。

「そうだね。お互いに自由を尊重しつつ、つながりも忘れない。それが理想かな」と私も同意した。

家族の形は変わりつつあるが、その中で見つけたバランスは、今後も大切にしていきたいと思う。






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