妻と愛人と家族

嵐の中の花：カミラ王妃の揺るぎない決意

嵐の中の花：カミラ王妃の揺るぎない決意

ロンドンの雨はいつも冷たく、しんしんと降り続ける。この日も例外ではなかった。カミラ王妃は車の窓に流れる水滴を見つめながら、深いため息をついた。チャールズ国王が前立腺の手術を受けてからというもの、彼女は日々忙しく公務をこなしていたが、その一方で国王の健康状態に対する不安は拭えなかった。さらに、キャサリン皇太子妃も腹部の手術を受けて入院中。王室の公務を担う人手が著しく不足していた。

カミラは手帳に書かれた予定を見ながら、自分が背負う責任の重さを再確認する。国王のお見舞い、そして一連の公務――誰かがこの役割を果たさなければならない。それが今、彼女に課せられた使命だ。しかし、王室に生まれ育ったわけではない彼女にとって、その重圧は計り知れないものだった。

ある日、カミラは悪天候の中、田舎の小さな町へ公務で訪れる予定があった。だがヘリコプターの飛行は、激しい嵐のために中止となった。彼女の秘書が「この天候では移動は危険です。予定を延期するのが賢明かと……」と進言したが、カミラは首を振った。

「待っている人たちがいるのよ。それに……彼を失望させたくないの。」

その「彼」とはもちろん、夫であるチャールズ国王を指していた。彼が手術を受けて以来、カミラは一層の献身を見せてきた。病院を訪れるたびに、チャールズは弱々しい笑顔を浮かべながら「無理はしないでくれ、カミラ」と言うが、彼女はそのたびに「大丈夫よ」と答え、手を握りしめるのだった。彼女にとって、何よりも大切なのは国王の期待に応えることだった。

結局、カミラはヘリが飛べない代わりに、6時間かけて車で移動する決断を下した。助手席に座る秘書が地図を見ながら、次の目的地までのルートを確認する中、カミラは目を閉じて、これまでの出来事を振り返っていた。彼女は王妃という立場になってからも、周囲の目を気にすることなく、自分の道を進んできた。それが彼女の強さでもあり、時に孤独を伴うものだった。

道中、嵐が激しさを増す中、カミラは運転手に「大丈夫かしら？」と声をかけた。運転手は一瞬、バックミラー越しに王妃の表情をうかがい、「はい、しっかり進んでおります」と応じた。車内は湿気で重苦しく、遠くで雷が鳴り響いていたが、カミラの心はどこか落ち着いていた。

ようやく目的地に到着したとき、現地の人々がカミラを出迎えた。その中には、ずぶ濡れになりながらも彼女の到着を待っていた子供たちの姿もあった。カミラは彼らに微笑みかけ、「待っていてくれてありがとう」と声をかけた。子供たちは驚いた表情を浮かべ、王妃の優しい眼差しに目を輝かせた。

その瞬間、カミラは感じた。自分がここに来た意味、そして王妃としての責務。それは単に形式的な公務をこなすことではなく、一人ひとりの人々に寄り添い、彼らの期待に応えることだ。何より、国王が自分を信頼していることを、彼女は強く意識していた。

公務を無事に終え、再びチャールズの病室に向かうカミラの心は、ある種の達成感で満たされていた。彼女は病室に入ると、ベッドに横たわるチャールズに微笑みかけた。

「大丈夫だったか？」と、チャールズは弱々しく尋ねた。

「もちろんよ、すべて順調に終わったわ。あなたを失望させることなんて、できないわ。」

チャールズはその言葉に小さく頷き、彼女の手をそっと握り返した。その瞬間、カミラは感じた。彼との絆がさらに深まったことを。

国王ががんと診断されたという知らせが入ったのは、その直後だった。チャールズは今後さらに長い療養生活に入ることとなり、公務も一時的に休止することになる。カミラはその知らせを聞いたとき、一瞬だけ深い悲しみと不安を感じたが、すぐにその感情を打ち消した。

「これからは私が支えなければならない。」そう心の中で誓いを立てた。彼がどんな困難に直面しても、彼女は決してそのそばを離れないと。

カミラ王妃は、その後も休むことなく公務をこなし続けた。彼女の献身的な行動は、国王だけでなく、国民やメディアからも賞賛された。悪天候にも関わらず、彼女が一度も予定をキャンセルすることなく公務を遂行し続けた姿勢は、誰もが認めざるを得なかった。

王妃としての使命と、妻としての愛。その二つを天秤にかけることなく、彼女はただひたすらに自分の役割を全うしていた。彼女が何よりも恐れていたのは、愛する夫を、そして期待している人々を失望させること。それが彼女を突き動かす原動力だった。