妻と愛人と家族

春秋花壇

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鏡のような夫婦

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「鏡のような夫婦」

新婚生活を始めてまだ数か月しか経っていないというのに、沙織の心には既に不安が広がっていた。夫の真司が、頻繁に幼馴染の由香を家に連れてくるようになってからだった。結婚してからもずっと親しいのは理解できる。二人は小さい頃から一緒に育った仲だ。それでも、沙織にとって由香の存在は少し重かった。

真司は、由香が来るたびに笑顔で彼女を迎え入れ、まるで自分の妹のように扱っていた。しかし、その距離感が近すぎると感じることが多くなり、沙織の心には小さな嫉妬が芽生えていた。食事中に二人が楽しそうに話す姿や、真司が由香のために特別な気遣いを見せるたびに、沙織は自分が疎外されている気持ちになった。

「ねぇ、真司。由香ちゃん、ちょっと頻繁すぎない?」

ある夜、沙織は意を決して真司に尋ねた。しかし、彼は笑って沙織の肩を軽く叩いた。

「なに言ってるんだよ、沙織。由香はただの幼馴染だって。お前だって、友達が遊びに来ることあるだろ?」

それが違う、と沙織は感じていた。沙織の友達が遊びに来るとき、真司はさりげなくその場を離れ、沙織が友達とリラックスできるように気を使ってくれる。しかし、由香が来るときは違う。真司はむしろ一緒になって楽しむ姿を見せ、沙織がその輪の外にいるように感じてしまうのだ。

そんなある日、沙織は友人に相談した。その友人は、驚くような提案をしてきた。

「ねぇ、沙織。真司さんの行動を鏡みたいに真似してみたら?同じように、彼がどう感じるか確かめてみるのも一つの手かもよ。」

その言葉に半信半疑ながらも、沙織は試してみることにした。彼女は決して意地悪な気持ちではなく、真司に自分の気持ちを少しでも理解してもらいたかった。

次に由香が家に来た日、沙織は意識的に自分の態度を変えた。いつもは控えめにしていた会話に積極的に参加し、真司が由香にするように、由香に特別な気遣いを見せる。さらに、由香が発言するたびに楽しそうに笑顔を見せ、親しげに振る舞った。

真司は最初、それを面白がっていたが、次第に彼の顔には不快感が現れ始めた。由香との会話の中で、沙織があまりにも由香に熱心に反応する様子に、真司は居心地の悪さを感じ始めたようだった。そして、とうとうその日は来た。

「おい、沙織。何なんだよ?今日は妙に由香に絡みすぎだろ?」

その一言で、沙織の胸に溜まっていた感情が一気にこぼれ落ちた。

「何なんだよって、いつもあなたがしてることを私もしてみただけよ。私だって、あなたが由香ちゃんといるとき、どれだけ居心地が悪いか、少しでもわかってもらいたかったの!」

沙織の声には怒りと悲しみが混ざっていた。真司は一瞬言葉を失い、黙り込んだ。彼は沙織がここまで感じていたとは思ってもみなかったのだ。

「……そんなふうに感じてたのか。ごめん、沙織。俺、全然気づいてなかった。」

真司の表情は真剣だった。沙織は少し驚いたが、その言葉に少し心が軽くなるのを感じた。

「そうだよ。私だって、由香ちゃんが来るのを嫌がってるわけじゃない。ただ、あまりにも彼女との距離が近すぎて、私が余計者に感じることがあるんだ。」

真司は深いため息をつき、ソファに腰を下ろした。

「確かに、俺は無神経だったかもしれない。由香とは昔からの付き合いだから、特に気にせずに接してたんだ。でも、沙織にそんな思いをさせてたとは……。本当に悪かったよ。」

沙織は真司の隣に座り、その手を握った。

「もう少しだけ、私の気持ちを考えてくれたら、それだけで嬉しいの。」

真司は黙ってうなずき、沙織の手を優しく握り返した。その瞬間、二人の間にあった微妙な溝が少しだけ埋まったように感じられた。

それからというもの、真司は由香を家に連れてくる頻度を減らし、沙織との時間を大切にするようになった。沙織もまた、夫の幼馴染である由香を理解し、時折一緒に過ごす時間を楽しむ余裕を持つようになった。夫婦は、まるで鏡のようにお互いの心に映るものを感じながら、少しずつ歩み寄っていくのだった。






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