妻と愛人と家族

隣の芝生は青く見える

隣の芝生は青く見える

田舎町の小さな家に住む翔太は、毎日学校に通うごく普通の中学生だった。周りには友達もいるが、彼はどこか物足りなさを感じていた。そんな彼の目を引いたのは、隣の家の芝生だった。

隣家には新しい家族が引っ越してきた。若い夫婦と小さな女の子、そして何よりも目を引くのは、手入れの行き届いた緑色の芝生だった。翔太の家の庭は雑草が生え放題で、どこか寂しい印象を与えていた。

「なんであんなに芝生が綺麗なんだろう…」翔太はため息をつく。隣の家からは、いつも楽しそうな声が聞こえてくる。子供の笑い声、夫婦の会話、そしてときどき流れる音楽。翔太の家は、静まり返った空気の中に、彼だけの孤独を感じさせていた。

ある日、翔太は思い切って隣の家に遊びに行くことにした。彼は緊張しながら玄関のベルを押す。すると、ドアが開き、そこには隣の女の子、ゆいが立っていた。彼女は大きな笑顔を見せ、「こんにちは！一緒に遊ぼう！」と言った。

翔太は驚きながらも、嬉しくなり「うん、いいよ！」と返事をした。ゆいと一緒に遊ぶうちに、彼は隣の家の楽しい雰囲気に引き込まれていく。芝生の上でかけっこをしたり、ボール遊びをしたりする中で、翔太は彼らが何気ない日常を大切にしていることに気づく。

「この芝生、毎日手入れしてるんだ。パパが芝刈り機で刈ってるの。」ゆいが自慢げに話す。翔太はその言葉に耳を傾け、ますます羨ましさを募らせた。

しかし、楽しんでいると同時に、翔太の心には影が差し込んだ。彼の家は、隣の家のように明るくはない。家の中には、いつも忙しそうな両親の姿があり、彼には余裕がないことを実感した。遊びの後、翔太は帰る道すがら、隣家の温かい雰囲気がまるで自分には手に入らないものであるかのように感じられた。

数日後、翔太は再び隣の家を訪れることにした。今度は父親が庭の手入れをしていた。彼は力強い声で「こんにちは！」と挨拶し、翔太も「こんにちは」と返した。隣の父親は笑顔で「おいで、一緒に手伝ってくれ！」と言った。

翔太は驚きながらも、手伝うことにした。草を刈り、花を植え、少しずつ隣家の芝生の美しさが理解できてきた。彼の心には、小さな希望の光が差し込む。隣の家の美しさは、手間をかけて育てられたものであることを知ったからだ。

その日以来、翔太は隣の家に遊びに行くことが多くなった。ゆいと一緒に遊ぶことも楽しみになり、彼女の両親とも仲良くなった。彼らは温かく迎え入れてくれ、翔太は徐々に家族のような存在になっていった。

しかし、翔太はその間も、自分の家のことを考えることがあった。両親は忙しく、あまり会話もない。彼は時折、寂しさを感じることがあった。隣の家族が持つ幸せと、自分の家の現実とのギャップに悩むこともあった。

ある晩、翔太はふと自分の家の庭を眺めた。芝生は荒れ放題で、雑草が生い茂っている。彼は心に決めた。「俺も、自分の庭を綺麗にしよう！」 翌朝、翔太は早起きして、庭の手入れを始めた。

最初は大変だったが、少しずつ整っていく庭を見ていると、心の中に喜びが湧いてきた。手を動かしながら、隣の家のような温かい空気を自分の家にも持ち込みたいと考えた。

数週間後、翔太はついに自分の庭を綺麗に整えることに成功した。手間をかけた分だけ、庭は少しずつ生き生きとしてきた。友達を招いてバーベキューをすることにした。

ゆいも招待した。彼女が来ると、翔太の家の庭を見て「すごい！綺麗になったね！」と褒めてくれた。その言葉に翔太は誇らしい気持ちになった。

「ありがとう、ゆい。君のおかげだよ。」翔太は言った。彼女の存在が、彼に勇気を与えてくれたのだ。

その日を境に、翔太は自分の家族とも少しずつコミュニケーションを取るようになった。家の中でも笑顔が増え、両親も庭を手伝うようになった。家族全員が参加するバーベキューの後、翔太は「家族って、こうやって一緒に過ごすことなんだな」と実感した。

隣の芝生は青く見えたが、努力と愛情を注げば、自分の家も同じように青くできることを翔太は学んだ。そして、隣家との関係もより深まり、彼は本当の幸せを見つけたのだった。