妻と愛人と家族

食べ残しの食品を冷蔵庫にしまう

食べ残しの食品を冷蔵庫にしまう

夕食が終わり、食卓にはまだいくつかの皿が残っていた。大皿に盛られたサラダ、煮込み料理の半分、そしてご飯の残り。陽子はため息をつきながら立ち上がった。今日も、家族全員が満足する量を作ったつもりだったが、どうしても食べ残しが出てしまう。

「もう食べないの？」夫の浩二がリビングのソファに座りながら聞いてくる。

「うん、もうお腹いっぱいみたい」と陽子は言いながら、テーブルの上を片付け始めた。息子の翔太はゲームに夢中になり、娘の美咲はスマホに視線を落としたまま。家族の誰一人として、片付けを手伝おうとはしない。

「まったく…」と陽子は内心でつぶやいた。食べ残しをどうするか、という名もなき家事がまた始まる。冷蔵庫の中は、いつもぎっしり詰まっていて、どこに何を入れようか頭を悩ませる瞬間がやってきた。

まずは、大皿に盛られたサラダ。ドレッシングをかけたままだったので、翌日にはしんなりしてしまうことは分かっている。だが、捨てるのはもったいない。「明日の朝ごはんにでも食べられるかな…」と考えながら、ラップをかけて冷蔵庫にしまった。

次に、煮込み料理の残りを見て、陽子は少し微笑んだ。これは明日の昼食にリメイクできそうだ。ちょっと手を加えれば、また新しい一品になる。家族はそのことに気づかないかもしれないが、陽子はそれでいいと思っていた。彼女の小さな工夫が、家庭の食卓を支えているのだ。

冷蔵庫を開けると、たくさんの容器が並んでいた。前の日のスープ、先週の半分残ったピザ、そして、いつか使うつもりでしまった食材たち。「これはもう捨てないとダメかも…」と、古い容器に手を伸ばす。結局、食べ残しをしまっても、忘れ去られて捨てる羽目になることも少なくない。

「冷蔵庫って魔法の箱じゃないんだよね…」と陽子は独り言を言いながら、ゴミ袋に古い食材を入れる。どれだけ管理していても、忙しい日々の中では時折こうなる。それでも、家族のためにバランスの取れた食事を提供することを陽子は心掛けていた。

ふと、息子の翔太がゲームをやめて、キッチンにやってきた。

「ママ、まだ残ってるの？」

「うん、でももう食べられないなら明日に回すよ。お腹空いた？」

翔太は首を横に振りながら、テーブルに残った煮込み料理をちらっと見た。「それ、明日のお弁当に入れてほしいな」と言う。

陽子は意外な提案に少し驚いた。翔太は最近、食べ物にあまり興味を示さず、むしろ好き嫌いが増えていた。「いいよ。でも、ちゃんと食べてくれる？」と陽子は念を押す。

「うん、たまにはママの料理も食べたいし」翔太のその言葉に、陽子は思わず笑みを浮かべた。息子がそんなふうに言ってくれるのは久しぶりだ。

「じゃあ、明日のお弁当用に少し取っておくね」と、陽子は煮込み料理を小さな容器に移した。そうしている間にも、冷蔵庫の中を見直し、明日の献立を頭の中で組み立てる。毎日のように続くこの作業だが、家族が喜んでくれる瞬間があると、その労力も少し報われる気がする。

冷蔵庫の中に並んだ食材や料理の容器を見て、陽子はふと思った。自分がしているこの名もなき家事は、誰も気づかないかもしれないけれど、家族の健康や幸せを支えている小さな工夫なのだと。

その夜、陽子はいつものように家族全員の様子を確認してから、ベッドに向かった。台所は片付き、冷蔵庫の中も整理された。食べ残しは無駄にならず、明日への備えとなる。

「明日も頑張ろう」そう心の中でつぶやき、陽子は静かに眠りについた。