妻と愛人と家族

食事の献立を考える

「食事の献立を考える」

夕方、キッチンに立つ麻美は冷蔵庫の扉を開け、ため息をついた。中には半分使いかけの野菜、残り少ない卵、そして冷凍された肉のパック。今夜の夕食の献立を決めなければいけないのに、何も思いつかない。

「また同じメニューじゃ飽きるよね…」

夫の健太と娘の玲奈は何でも食べてくれるが、最近は少し変化が欲しいと言われている。特に玲奈は高校生になり、食の好みが少しずつ変わってきたようだ。昔はハンバーグやカレーが大好きだったのに、最近は「野菜をもっと食べたい」と言い出すこともある。麻美はその成長を喜びつつも、どうやって栄養バランスの取れた食事を作るか頭を悩ませていた。

「今日は何にしようかな…」

カレンダーを見ると、もう一週間も同じような献立が続いている。麻美はスマートフォンを取り出し、クックパッドやレシピサイトをいくつかチェックしたが、特に目新しいものは見つからない。

「たまには、家族に何が食べたいか聞いてみようかな…」

麻美はリビングにいる健太と玲奈のもとへ向かった。二人はそれぞれの場所でリラックスしていた。健太はソファに座ってテレビを見ており、玲奈はテーブルに座ってスマホをいじっている。

「ねえ、今日の夕ご飯、何が食べたい？」

麻美がそう尋ねると、二人は一瞬考え込んだ様子を見せた。

「うーん、俺は何でもいいよ」と健太はテレビから目を離さずに答える。

「いつもそう言うけど、ほんとに何でもいいの？」麻美は笑いながら返す。

「ほんとに何でもいいさ。麻美が作るものは何でも美味しいし、あんまりこだわりないよ。まあ、強いて言うなら、ちょっと肉が食べたいかな。最近野菜多めだったから」

その答えに、麻美は小さく頷いた。確かに最近は、健康志向で野菜中心の献立が多かった。

「じゃあ、玲奈は？」

玲奈は少し悩んだ後、スマホの画面を見つめながら答えた。

「うーん、私はね…なんかオシャレなやつがいいな。インスタに載せても映える感じの」

「インスタ映えね…」

麻美は少し苦笑しつつ、頭の中でそれらを組み合わせてみる。肉料理で、インスタ映えするようなもの。何かあるだろうか。

「よし、考えてみる」

麻美は再びキッチンへ戻り、冷蔵庫を見つめた。すると、ふと「ステーキ」が頭に浮かんだ。シンプルながら、家族みんなが喜ぶ料理だし、アレンジ次第でオシャレにもできる。冷凍庫にあったステーキ肉を取り出し、少し解凍させることにした。

「ステーキなら、みんな満足してくれるかな。サイドメニューで工夫すればいいかも」

麻美は野菜もたっぷり使おうと、冷蔵庫の野菜室を覗き込んだ。残っていたズッキーニ、パプリカ、ブロッコリーを取り出す。それに、最近玲奈が気に入っているアボカドも加えることにした。

「これでサラダを作って、ステーキの付け合わせにしよう」

彼女は早速準備を始めた。まずは野菜を一口大に切り、オリーブオイルで軽く炒める。それから、アボカドとトマトを使って、さっぱりとしたドレッシングを作り、サラダに仕上げた。色とりどりの野菜がプレートに映える。

「これなら、玲奈も満足するかな」

次に、ステーキを焼く準備に取りかかる。強火で表面をしっかりと焼き付け、中は少しレアに仕上げる。健太のリクエスト通り、肉の旨味を存分に引き出すように注意を払った。

料理が仕上がり、テーブルに並べると、家族が集まってきた。

「お、ステーキか！いい匂いだな」健太は嬉しそうに言った。

「すごい！このサラダ、めっちゃオシャレじゃん！」玲奈も驚いた様子だ。

麻美は自分が作った料理を見て、少しほっとした。家族の反応が良いと、それだけで頑張った甲斐がある。

「さ、冷めないうちに食べよう」

家族全員が食卓につき、夕食が始まった。健太は肉を大きく口に運び、満足そうに頷いた。

「これ、最高だな。やっぱりステーキはいいよ」

玲奈もサラダを食べながら、「このアボカドとトマトの組み合わせ、めっちゃ美味しい」と目を輝かせている。

麻美はその様子を見ながら、自分が作った料理で家族が笑顔になる瞬間が、一番の幸せだと感じた。

「やっぱり、献立を考えるのは大変だけど、こうしてみんなが喜んでくれると嬉しいな」

彼女はそう心の中でつぶやき、もう一口ステーキを食べた。家族で食卓を囲む時間、その何気ない瞬間が、麻美にとってかけがえのないものだった。