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敬老の日に想う

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「敬老の日に想う」

9月16日、今日は「敬老の日」。秋の涼やかな風が吹き、街中では高齢者を敬うメッセージが掲げられている。和也はこの日、久しぶりに祖母の家を訪れることにした。日々の忙しさにかまけて、会うのは数ヶ月ぶりだった。

「おばあちゃん、元気にしてる?」

玄関を開けると、祖母は笑顔で迎えてくれた。彼女は82歳、だがその背筋はしゃんとしており、動きも軽快だった。

「元気よ。あんたこそ、ちゃんと食べてる?」

祖母は和也に気遣う。小さな体に活力を感じさせる彼女の様子に、和也は少し安心した。しかし、家の中に一歩足を踏み入れると、以前に比べて多少の寂しさを感じる。台所には昔よく作ってくれた煮物の匂いがもうないし、リビングもやや殺風景だ。

「最近は、仕事してないんだろう?」

和也が訊ねると、祖母は少し微笑んだ。

「いや、まだ続けてるよ。あんたも知ってるでしょ?おばあちゃん、病院の清掃の仕事、辞めてないのよ」

驚いた。和也は祖母がすでに仕事を引退していると思い込んでいた。しかし、祖母はまだ現役で働いていたのだ。65歳を超えたら、のんびりと暮らすのが普通だろうと思っていたが、その考えは時代遅れなのかもしれない。

「すごいな、まだ働いてるなんて。でも、無理しないでね」

「無理してないよ。若い人たちと一緒に働くと、逆に元気が出るのよ。私みたいな年寄りでも、まだ役に立てるって感じるしね」

祖母の言葉に、和也は少しハッとした。高齢者の人口が増え続けている一方で、働く高齢者も増えているという話は耳にしていたが、自分の身近にそれがあるとは思わなかった。総務省の発表によれば、日本の総人口は減少しているが、65歳以上の高齢者は過去最多の3625万人に達し、約7人に1人が高齢者だという。彼女もその一員なのだ。

「けど、体力的に辛くないの?」

和也は少し心配になったが、祖母は笑顔で首を振った。

「確かに、若い頃みたいにバリバリとはいかないけど、毎日が充実してるよ。周りの人たちとも仲が良いし、何よりも私自身がまだ必要とされていると感じられるからね」

その言葉に、和也は考え込んだ。彼自身、仕事に追われる日々の中で、いつしか「役に立つこと」を重視するようになっていた。だが、祖母は高齢にもかかわらず、自らの存在意義を見出し続けている。それは、若者にも負けないエネルギーだ。

「おばあちゃんみたいな人が増えれば、日本はもっと元気になるかもな」

和也は思わずつぶやいた。

「それが難しいんだよね。みんながみんな、働けるわけじゃないし。だけど、私みたいに働きたいと思う人には、まだまだチャンスがあるんだ。高齢者でも働ける場所が増えてきてるからね」

祖母の言葉には力があった。そして、それを聞いた和也は、ふと自分の働き方についても見直すべきだと感じた。仕事をしているのは、自分のためだけではない。社会の一員として、誰かの役に立つために働くということを、祖母は自然に実践していた。

夕食の時間が近づき、和也は冷蔵庫を覗いた。特別なご馳走ではなく、ありふれた食材が並んでいるが、それでも祖母は手際よく調理を始めた。昔ながらのシンプルな料理が、彼にとっては何よりのご馳走だった。

「これからも、元気でいてくれよな」

和也がそう言うと、祖母は少し照れくさそうに笑った。

「もちろんよ。でも、あんたも体には気をつけなさいね。仕事ばかりじゃなくて、ちゃんと自分の時間も大切にするんだよ」

その言葉に、和也は心が軽くなるのを感じた。祖母のように、年を重ねても元気で働き続けられること。それが今の日本の高齢者たちの姿なのかもしれない。そして、それは彼自身にとっても、一つの目標となった。

夕食が終わり、和也はゆっくりと帰り支度を始めた。外はすっかり暗くなり、涼しい風が秋の訪れを告げていた。

「また来るよ。敬老の日って言ったけど、もっと頻繁に顔を出すようにするから」

「それは楽しみね。でも、無理しないで、あんたのペースでいいからね」

玄関先で見送られ、和也は深く息を吸い込んだ。敬老の日に感じたのは、ただの感謝や敬意だけではなかった。祖母が今でも社会の一員として活躍していること。その姿が、和也の心に新たな力を与えた。

そして、彼はふと思った。

「いつか、俺もあんなふうに年を重ねていけたらいいな」

その思いを胸に、和也は祖母の家を後にした。









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