妻と愛人と家族

やっちまった同棲生活

「やっちまった同棲生活」

「まぁ、適当に同棲して、何年かたったら別れようかなって思ってたんだけどさ…」

ソファにだらりと身を預け、俺は天井を見つめていた。同棲を始めた時は、そんな軽いノリだった。彼女とはそこまで深く考えず、ただ一緒にいるのが楽しくて始まった生活。だが、今では状況がすっかり変わってしまった。

彼女の名前は美奈。仕事帰りに立ち寄ったバーで知り合ったのが始まりだった。お互い仕事で疲れ果てた夜、何気なく話しかけたら意外と気が合って、自然と付き合い始めた。特に大きなトラブルもなく、普通にデートをして、普通に付き合っていた。だから、同棲しようと言われた時も、特に深く考えずに「いいよ」と答えたのだ。

でも、それが全ての始まりだった。

突然の家族の襲来

最初は何も問題なかった。美奈は料理も得意で、俺は掃除や洗濯を担当。生活はそこそこ順調だった。週末には一緒に映画を観たり、近所のカフェでゆっくり過ごしたり。これでいいんじゃないかって思ってた。

ところが、ある日を境に、彼女の両親が頻繁に訪れるようになった。最初は「近くに用事があったから」なんて言い訳で泊まっていったが、それが徐々に定期的なものになり、さらには美奈の兄弟も一緒に泊まりに来るようになった。

「なんでこんなにしょっちゅう来るんだ？」と不満をぶつけても、美奈はニコニコ笑って「家族だからね」と軽く流すだけだった。俺も最初はそれで納得していたが、次第に居心地が悪くなってきた。リビングには家族の荷物が散乱し、冷蔵庫の中には見覚えのない食材が増えていく。

家族の力ってすごいな、と感心するやら呆れるやら。結局、家の中はいつの間にか美奈の家族のものになっていた。

逃げられない結婚への道

「もう、ガチで結婚するしかないのか…」

心の中でそう呟いたのは、ある日曜日のことだった。美奈の両親と兄弟が総出で家に泊まっていて、リビングはまるで大家族のような賑わいを見せていた。俺は一人、キッチンでコーヒーを淹れながら、彼女の家族が談笑する様子を遠巻きに見ていた。

「お兄さんもそろそろ落ち着かないとねぇ」

美奈の母親が、俺にそう声をかけた。何気ない言葉だったが、妙に胸に刺さった。俺はただ同棲の延長線上で、何となく一緒にいただけだ。でも、美奈の家族にとっては、もう俺は「美奈の夫」として見られている。そう感じた瞬間、逃げ道がなくなったような気がした。

観念した俺の選択

「まぁ、いいか…」

その言葉を口にしたのは、それから数週間後のことだった。美奈の家族が泊まりに来るのはすっかり当たり前のことになり、俺も慣れてしまった。家族の力には勝てないし、それに悪くない居心地だった。美奈も気が利いて、ちゃんと俺のために動いてくれる。

「結婚って、こうやって流れで決まるものなのかもな」

そう思うと、なんだか肩の力が抜けた。恋愛や結婚はもっとドラマチックなものだと想像していたが、現実は案外こういうものなのかもしれない。適当に同棲を始めたはずが、いつの間にか美奈の家族に巻き込まれ、気づけば結婚するしかなくなっていた。だが、それも悪くないと思い始めていた。

「美奈、結婚しようか」

俺がそう告げると、美奈は驚いた顔をした後、満面の笑みを浮かべた。

「うん、そうだね。私もそう思ってた」

それだけで良かった。家族の力はすごいが、それが悪いことではないと気づいた瞬間だった。家族と一緒にいることの安心感、温かさ。それを感じながら、俺は新しい一歩を踏み出した。

家族の力に押されて決めた結婚。でも、それでいい。結婚は流れで決まるものかもしれないが、その流れに身を任せるのも悪くない。俺たちは家族になっていく。それは、予想外の形で始まったが、これからも続いていくものだった。