妻と愛人と家族

十人の子供が欲しい男

「十人の子供が欲しい男」

俺は小さい頃から家族に憧れていた。父が仕事に忙殺され、母が育児で疲弊している姿を見て育ったからか、いつしか「自分は大きな家族を作るんだ」と夢見るようになっていた。十人の子供たちが駆け回る広い家、賑やかな食卓、笑い声が絶えないリビング。そんな未来を想像していた。

しかし、現実は思い描いていたものとは違っていた。俺は三十を過ぎて独身。仕事はそれなりに順調だが、結婚の見通しは全く立っていない。それでも、俺の夢は諦められなかった。「十人の子供が欲しい」と言うと、友人たちは冗談だと思って笑うが、俺は本気だった。だが、それを実現するにはパートナーが必要だ。だから、俺は行動に出た。

「ハーレム」を作ろう。そう思ったのは、偶然目にした雑誌の特集がきっかけだった。そこには「多妻制」についての記事が載っていて、複数の妻を持つ男性たちが幸せそうに笑っていた。俺もこうなりたい、と直感的に思った。複数の女性たちと共に家庭を築き、多くの子供を育てる。それこそが、俺の求めていた形だ。

最初は慎重だったが、今ではSNSを駆使して複数の女性と連絡を取り合い、少しずつ関係を深めていった。俺のハーレム計画は順調に進んでいるように思えた。三人の女性とデートを重ね、それぞれに誠実に向き合った。彼女たちは俺の夢を理解し、支えてくれるようになった。やがて、一人目の女性が俺の元に住むことを決意し、家庭生活がスタートした。

「ねえ、本当に十人も子供を育てるの？」彼女は半信半疑だったが、俺は笑って答えた。「もちろん。俺は本気だから」

その後、二人目、三人目の女性も次々に合流し、俺たちの家庭は少しずつ形を成していった。彼女たちとの関係は複雑で、それぞれに気を使い、時にはぶつかることもあった。それでも、俺は自分の夢に向かって進んでいた。子供たちのための部屋を準備し、一緒に遊び、笑い合う日を楽しみにしていた。

しかし、現実は甘くなかった。最初の頃は理解し合えていたはずの女性たちも、次第に不満を募らせていった。お互いの役割や時間の分配、家事や育児の負担の問題で衝突が絶えなかった。俺は彼女たちを平等に愛するつもりだったが、どうしても不公平感が生まれてしまうのだ。

「なんで私ばかりがこんなに大変な思いをしなきゃいけないの？」
「彼女ばかり優先して、私はどうなるの？」
「もうこんな生活、続けられないわ」

次第に家の中は緊張感で包まれるようになり、あんなに賑やかだった食卓も静まり返っていった。俺の夢はどこへ行ってしまったのだろう。子供たちの笑い声に包まれるはずだったリビングも、今ではため息と不満の声が響くだけだ。

ある日、三人のうちの一人が俺に話を切り出した。「もう無理よ。私、出て行くわ」彼女は涙を流しながら言った。俺は何も言えなかった。俺のハーレム計画は、結局ただの幻想だったのかもしれない。十人の子供たちと共に笑い合う未来は、遠のいてしまった。

それから程なくして、残りの二人も去っていった。俺は一人、広すぎる家に残され、夢の跡を眺めていた。かつては賑やかだったリビングも、今では静まり返り、俺の孤独だけが残っていた。俺の夢はどこで間違えたのだろうか。

俺は再び独身に戻った。だが、一つだけ学んだことがあった。それは、家族はただ多ければいいわけではないということ。真に大切なのは、お互いを尊重し合い、支え合うことだということだ。俺は夢を見失ってしまったが、その過程で得たものも少なくはない。

そして、もう一度やり直す決意をした。今度は一人の女性をしっかりと愛し、共に歩む道を選ぼう。十人の子供たちは無理かもしれないが、俺にはまだ未来がある。次こそは、本当に幸せな家庭を築いてみせる。俺はそう心に誓い、新たな一歩を踏み出すのだった。