妻と愛人と家族

結婚に向いていない人

 「結婚に向いていない人」

青山美咲は、結婚について考えたことがなかった。仕事に打ち込む日々と、自分の時間を最優先にする生活が心地よかったからだ。しかし、友人の結婚式が続く中で、自分が結婚に向いていないのではないかという不安が、心の片隅に根を下ろし始めた。

美咲の家は、いつも完璧に整頓されていた。家事は苦手だが、彼女は「できるだけ完璧に見せよう」としていた。洗濯物は乾燥機にかけ、掃除機を毎日かけ、キッチンは常に清潔に保たれていた。しかし、その背後には彼女のストレスと、家事を手抜きせずにこなすことに対するプレッシャーが隠れていた。

仕事も好きだった。マーケティングの仕事に情熱を持ち、いつも忙しく働いていた。しかし、仕事が楽しすぎるあまり、職場を離れることが苦痛に感じることがあった。定時を過ぎても、会社に残って自分のペースで仕事を続けるのが普通になっていた。家での時間も、できる限り仕事の延長として使いたかった。

美咲には、何でも自分でできてしまう性格があった。友人たちはよく「手際がいい」と褒めてくれたが、その裏には「誰にも頼らず、何でも一人で抱え込む」という彼女の姿勢があった。たとえ誰かが手伝おうとしても、彼女は「自分でやるから大丈夫」と一蹴することが多かった。自分のペースで動くのが心地よく、他人のペースに合わせることは、ほとんど苦痛に感じられた。

休日は、自分の趣味に没頭するのが好きだった。特にアートや音楽に関する時間は、彼女にとってかけがえのないもので、趣味の時間が削られることを考えると、恐ろしいストレスを感じていた。もしも結婚生活がその時間を脅かすものであれば、耐えられないと感じていた。

ある日、美咲は大学時代の友人、佐藤幸雄と再会した。幸雄は、結婚を控えているという話を聞き、美咲はその幸せそうな姿に圧倒されてしまった。幸雄の生活の変化について話を聞きながら、美咲は次第に自分の結婚に対する考えが変わり始めた。彼が家庭を持ち、パートナーと協力し合って生きていく様子を見て、美咲は「結婚に向いていない自分」をより一層実感するようになった。

彼女は、自分が結婚に向いていない理由を理解し始めた。家事が苦手で、すぐにストレスを感じること、自分の時間を削られることに対する恐怖、そして他人のペースに合わせることができない自分。これらがすべて、彼女の結婚に対する抵抗感となっていた。

「結婚生活って、こうして他人と協力し合いながら成り立つものなのだろう。」美咲は一人、自分の部屋で考えた。幸雄と話しているうちに、彼の言葉や態度から「結婚における相手との協力」がどれほど重要であるかを実感した。

その夜、美咲は過去を振り返り、自分の生活スタイルを見つめ直すことに決めた。結婚に向いていない自分を受け入れ、どうすれば他人と協力し合えるのか、どうすれば家事や家庭の時間と仕事をバランスよく保てるのかを真剣に考えることにした。

次の日、美咲は思い切って友人たちに相談することにした。彼女が結婚に対する不安や、自分の性格がどう影響するかを打ち明けたとき、友人たちは驚いたが、同時に彼女の悩みを真摯に受け止め、アドバイスをくれた。

「完璧であろうとしすぎなくていいのよ。」友人の一人が言った。「結婚は協力し合うことだし、お互いが歩み寄ることが大切なの。」

美咲はその言葉に心を打たれた。彼女は、自分の結婚観やライフスタイルを見つめ直し、他人と協力することに対する意識を高めていった。結婚に向いていない自分を受け入れながらも、その不安にどう向き合い、どう克服するかを模索していく決意を固めた。

彼女がどう変わっていくかはわからないが、一つ確かなのは、結婚に向いていない自分を理解し、向き合うことで、これからの人生をどう生きるべきかを考える重要な一歩を踏み出したということだった。