妻と愛人と家族

春秋花壇

文字の大きさ
上 下
572 / 1,007

夏のお弁当

しおりを挟む
「夏のお弁当」

東京の夏は蒸し暑く、街のコンクリートがじりじりと焼けるような熱気に包まれていた。そんな中、健太と美咲は共働きの生活を送っていた。二人の生活は質素で、毎月の予算もぎりぎりでやりくりしていた。特に、食費は二人合わせて月7万円と決め、慎重に使うようにしていた。

「健太、お弁当の準備できた?」美咲がキッチンから声をかけた。彼女は朝の忙しい時間にもかかわらず、夫のためにお弁当を作っていた。お弁当には、昨日の夜ご飯の残り物や、自分たちで作ったおかずが詰められていた。

「うん、ありがとう。でもさ、最近この暑さだから、お弁当が腐りそうでちょっと怖いよな。」健太はお弁当箱を見つめながら、少し心配そうに言った。東京の夏の暑さは、お弁当を傷めやすく、特に肉や魚のおかずには注意が必要だった。

「私も心配してる。だから最近は保冷剤を入れてるけど、それでも不安よね。」美咲は少し眉をひそめて言った。彼女も同じように心配していた。共働きの生活では、外食は贅沢であり、節約のためにお弁当を持っていくことが欠かせなかった。

その日、健太はいつものように弁当を持って出勤したが、昼休みになってから不安が増してきた。開けたときに嫌な匂いがしたらどうしよう。職場の冷蔵庫は社員全員で使っているため、すぐにいっぱいになるし、弁当を入れられる保証はない。

昼休み、同僚の田中が近寄ってきた。「健太、お弁当か?最近のこの暑さで腐るんじゃないかって心配でさ、俺は今日はコンビニで済ませたよ。」

健太は田中の言葉に心が揺れたが、家計を考えると、毎日コンビニで買うわけにはいかない。「そうだな。でも、うちの食費を考えると、お弁当を持ってこないとやっていけないんだ。美咲も毎朝早く起きて作ってくれてるし、無駄にはできないよ。」

「そっか、お前のところも大変なんだな。保冷剤とか使ってるんだろうけど、それでも心配だよな。」田中は同情の表情を見せながら、自分のコンビニ弁当を開けた。

健太は少し悩んだ後、お弁当のふたをゆっくりと開けた。中には美咲が愛情込めて作ったおかずがきれいに詰まっていた。色とりどりの野菜、ふんわりと炊き上がったご飯、そして冷えた唐揚げ。幸いにも、嫌な匂いはせず、健太はほっとした。

「美味そうだな。俺もお前みたいな奥さんがいたら、こんな弁当持ってこれたのかもな。」田中は感心したように言った。

健太はにっこり笑って、「美咲が頑張ってくれてるからな。でも、これで何かあったら、さすがに考え直さないといけないかも。」と言いながら、お弁当を食べ始めた。

その夜、健太は帰宅してから美咲に話しかけた。「今日も無事にお弁当食べられたよ。ありがとう。でもさ、やっぱりこの暑さが続くと、いろいろと不安になるよな。これからのこと、ちょっと考えた方がいいかも。」

美咲は健太の言葉を聞いて、少し考え込んだ。「そうね、私も同じこと考えてたの。毎日保冷剤を入れてるけど、完璧な対策にはならないし…。週に一度くらいは、ちょっとだけ贅沢して外食にするのもいいかもしれないわね。」

健太はうなずいた。「うん、無理せずにやっていこう。月7万円の予算は守りたいけど、健康や安全を犠牲にするわけにはいかないし。」

その後、二人は月の予算を再調整し、暑い夏の間だけ、週に一度は外食を楽しむことにした。家計をやりくりしながらも、お互いの健康と幸せを大切にすることが大事だと気づいたからだ。

東京の夏は厳しかったが、健太と美咲はお互いを支え合いながら、新しい生活のリズムを見つけていった。そして、二人は一つ一つの選択を通じて、自分たちの家庭を築いていくことの大切さを再確認したのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

ぽっちゃりOLが幼馴染みにマッサージと称してエロいことをされる話

よしゆき
恋愛
純粋にマッサージをしてくれていると思っているぽっちゃりOLが、下心しかない幼馴染みにマッサージをしてもらう話。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

春秋花壇
現代文学
注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...