妻と愛人と家族

春秋花壇

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帰還

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帰還

母親が死んでから、ずっと引きこもりのへたれな俺はこれじゃあだめだと実家に帰ってみたんだ。予想通り誰も住んでいない。でも、お盆で誰か帰ってくるかもしれない。ワクワクドキドキの実家暮らし。

母親が亡くなってからの俺は、完全に引きこもりになってしまった。自宅に閉じこもり、誰とも会わず、ただ日々を無為に過ごしていた。何もする気が起きず、食事もろくに取らず、昼夜逆転の生活。友達もいなくなり、仕事も辞めて、ただひたすら部屋の中で過ごしていた。

でも、ふとした瞬間に思ったんだ。このままじゃだめだって。母親がいなくなってからの俺は、まるで生きること自体を放棄してしまったようだった。でも、そんな俺を母親はきっと悲しんでいるだろう。だから、俺は一念発起して、実家に帰ることにしたんだ。

久しぶりの実家は、予想通り誰も住んでいなかった。母親が亡くなった後、父もすぐに他界し、兄弟もいなかった俺には、実家を管理する人間がいなかった。家はまるで時間が止まったかのように、当時のまま残されていた。家具も、母親が最後に使っていたものがそのまま置かれていて、少し埃をかぶっていた。

「ここで暮らしてみるか……」

そう思ったのは、お盆が近づいていたからだ。昔から、お盆になると亡くなった家族が帰ってくると言われていた。母親も、お盆には必ず祖父母の霊が帰ってくるからと、毎年欠かさずに準備をしていた。そんな母親を見て育った俺にとって、お盆は特別な意味を持っていた。

「もしかしたら、母さんも帰ってくるかもしれない……」

そう思うと、なんだかワクワクしてきた。今までの暗い生活から抜け出して、少しだけ前向きになれた気がした。母親とまた会えるかもしれないという期待が、俺に勇気を与えてくれたのだ。

実家での生活は、思ったよりも快適だった。田舎の静かな環境が、都会の喧騒から逃れてきた俺には心地よかった。窓を開けると、虫の声や風の音が聞こえてきて、なんだか心が落ち着いた。母親が残してくれた家で、俺は少しずつ心を癒していった。

お盆の準備も、母親がしていたようにやってみた。仏壇をきれいに掃除し、お供え物を用意し、提灯を灯す。そんな一つ一つの作業が、俺にとっては新鮮で、どこか懐かしい感じがした。母親がいつもしていたことを、今度は俺がする番だと思うと、少しだけ誇らしい気持ちになった。

そして、お盆の夜がやってきた。提灯に火を灯し、静かに仏壇の前に座った。心の中で「母さん、帰ってきてくれ」と祈りながら、目を閉じた。すると、ふと部屋の中が温かくなったような気がした。まるで、母親がそばにいてくれるような感覚だった。

「母さん……?」

俺はそっと目を開けた。部屋の中は薄暗く、提灯の火がゆらゆらと揺れているだけだった。でも、その火の明かりの中に、確かに母親の姿が見えた気がした。

「帰ってきたんだね……」

俺は思わず呟いた。もちろん、母親の姿ははっきりとは見えなかったが、その存在を感じることができた。まるで、母親が「よく頑張ったね」と言ってくれているような気がした。涙がじわりと目に浮かんできたが、それは悲しみの涙ではなく、喜びの涙だった。

その夜、俺は久しぶりにぐっすりと眠ることができた。まるで母親がそばにいてくれるような、安心感に包まれていた。翌朝、目が覚めた時には、心の中がすっかり晴れやかになっていた。

「母さん、ありがとう。これからも見守っていてくれ」

そう心の中で呟きながら、俺は新しい一歩を踏み出す決意をした。母親が帰ってきてくれたことに感謝しつつ、これからは母親に恥じないような人生を歩んでいこうと、強く誓ったのだった。








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