妻と愛人と家族

鯖のぶつ切りの塩辛

「鯖のぶつ切りの塩辛」

日曜日の午後、陽の光がリビングの窓から優しく差し込んでいた。沙織は、台所で母と一緒に昼食の準備をしている。テーブルには、色とりどりの食材が並べられていたが、沙織の心は、父が作った鯖のぶつ切りの塩辛に完全に奪われていた。

父の作る塩辛は、彼が長い間修行してきた料理の一つで、家族にとって特別な意味を持つ。父の手にかかれば、どんな食材も絶品に変わる。沙織が子供のころから、この塩辛は家族の食卓で欠かせない存在だった。舌の奥に広がる深い味わいが、一口ごとに幸福感をもたらし、彼女はいつも病みつきになるほどだった。

「お父さん、今日も塩辛作ったの？」と、沙織は期待を込めて母に聞いた。母は微笑んで、台所の隅に置かれた瓶を指さした。「はい、できたてよ。お父さんが昨夜、丁寧に仕込んでくれたの。」

沙織の心は、一気に温かくなった。瓶を手に取り、蓋を開けると、豊かな香りが広がり、彼女の食欲をそそった。鯖のぶつ切りが、塩とともに絶妙に発酵しており、舌の上で溶けるような柔らかさが感じられる。

「早く食べたいな」と沙織はつぶやき、食卓に運んだ。母がテーブルを整え、食事の準備が整ったころには、沙織の期待は最高潮に達していた。

家族がテーブルに集まり、食事が始まると、沙織はすぐに塩辛を口に運んだ。舌の上で広がる塩辛の味わいは、まさに父の愛情そのものだった。濃厚な旨味と、程よい塩気が絶妙に混ざり合い、彼女はすぐにその味に引き込まれた。

「おいしい…」沙織は目を閉じて、幸せそうに言った。その声には、感謝と愛情が込められていた。

食事が進む中で、家族の会話が弾む。父が話す昔の思い出や、母が最近の出来事をシェアする。こうして家族が一緒に過ごす時間は、沙織にとって何よりも大切だった。塩辛の味わいが、彼女にとってその幸せな瞬間を一層引き立てていた。

食事が終わると、沙織はふと、父がどれほどの時間と努力をかけてこの塩辛を作ったのかを考えた。彼の手には、長い経験と深い愛情がこもっている。そんなことを思うと、塩辛の一口一口がさらに特別なものに感じられる。

「お父さん、ありがとう。」沙織は心からの感謝を込めて、父に微笑んだ。父は優しく頷き、満足そうに微笑み返す。その笑顔には、彼の料理がどれだけ家族を幸せにしているかが、如実に表れていた。

夕暮れの光が部屋に差し込む頃には、食事も終わり、家族はそれぞれの仕事や趣味に戻る準備をしていた。沙織は、食卓の片付けを手伝いながら、心の中で父への感謝の気持ちを噛みしめた。

その日、沙織は再び思った。父の作る塩辛は、ただの料理ではない。それは家族の絆を深める、愛情そのものの表現だった。毎回その味に触れるたびに、彼女はそのことを改めて実感するのだった。

そして、次の休日には、また同じように塩辛が食卓に並ぶことでしょう。それは、沙織と家族の大切な時間を彩る、変わらぬ幸せの象徴であり続けるのだろう。