妻と愛人と家族

いやいや期のトンネル

「いやいや期のトンネル」

彩子と夫の健一には、二歳の息子、翔太がいた。翔太は現在、いわゆる「いやいや期」の真っ只中だった。何を言っても「いや！」と言い返され、日常のあらゆる場面での抵抗に彩子は疲れ果てていた。

ある朝、彩子は翔太を保育園に連れて行く準備をしていた。翔太はパジャマのまま走り回り、服を着ることを拒んでいた。

「翔太、お洋服着ようね」と彩子は優しく言った。

「いやだ！」翔太は叫びながら逃げ回った。

彩子は深いため息をつき、追いかけて捕まえようとしたが、翔太はさらに激しく抵抗した。最終的に力ずくで服を着せることになり、翔太は大泣きした。

その夜、彩子は夫の健一と話し合うことにした。彼は仕事が忙しく、家事や育児にあまり関与していなかったが、最近の状況を理解し始めていた。

「健一、翔太のいやいや期が本当に大変で…もうどうすればいいかわからないの」

健一は彩子の手を握り、真剣な表情で言った。「彩子、俺も何か手伝いたいと思ってる。でも、どうすればいいのか具体的にわからないんだ」

彩子は少し考え込んだ後、提案した。「一緒に育児書を読んで、どうやって対応するか学ぼう。それから、育児のカウンセリングも受けてみるのはどう？」

翌週、二人は近くの育児サポートセンターを訪れ、専門家のアドバイスを受けた。カウンセラーの中村さんは、いやいや期の特徴と対応法について丁寧に説明してくれた。

「いやいや期は、子供が自分の意志を持ち始める大切な時期です。大人としては、子供の気持ちを尊重しつつ、ルールを教えていくことが大切です。まず、子供に選択肢を与えることから始めてみましょう」

その日の夜、彩子と健一は話し合い、新しいアプローチを試してみることにした。次の日の朝、彩子は翔太に言った。

「翔太、今日は青いシャツと赤いシャツ、どっちを着たい？」

翔太は一瞬考えた後、指を差して「青いシャツ！」と言った。彩子は驚きと喜びを感じながら、翔太に青いシャツを着せた。

この小さな成功から始まり、彩子と健一は少しずつ翔太とのコミュニケーションを改善していった。もちろん、全てが順調に進むわけではなかったが、彼らは毎日の生活の中で少しずつ変化を感じていた。

ある日、彩子が夕食の準備をしていると、翔太が「ママ、お手伝いする」と言ってきた。彩子は微笑みながら「ありがとう、翔太。じゃあ、この野菜を洗ってくれる？」と頼んだ。

翔太は喜んで野菜を洗い、二人で一緒に夕食を作る楽しさを共有した。彩子は心の中で「いやいや期は確かに大変だけど、こうやって少しずつ乗り越えていけるんだ」と感じた。

数ヶ月後、翔太のいやいや期は次第に落ち着いてきた。彩子と健一は、翔太との絆が深まったことを実感していた。彼らはお互いに協力し合い、家族として成長していった。

彩子はある夜、健一に言った。「ねえ、私たち頑張ったよね。翔太のいやいや期を乗り越えられたのは、二人で協力し合ったからだと思う」

健一は微笑みながら答えた。「本当にそうだね。これからも一緒に頑張ろう、彩子」

そして、彩子は静かに誓った。「どんな困難があっても、家族として一緒に乗り越えていこう」と。