妻と愛人と家族

「彼女が働かないと」

「彼女が働かないと」

佐藤由美は毎朝、6時に起床する。彼女の隣で夫の一郎がまだ眠っていることを確認し、そっとベッドを抜け出す。台所でコーヒーを淹れ、朝食の準備を始める。今日もまた、忙しい一日が始まるのだ。

由美と一郎は結婚して5年が経つ。二人は高校の同級生で、大学時代から付き合っていた。結婚後、一郎は中小企業で営業マンとして働き始めたが、給料は決して高くなかった。月の手取りはおおよそ20万円で、家賃や光熱費、食費を差し引くと、貯金する余裕などほとんどなかった。

「由美、無理しないでね」と一郎はいつも言う。しかし、現実は厳しかった。由美もフルタイムで働かないと、生活は成り立たないのだ。由美は子供服のデザインをする会社で働いている。彼女の月収も約20万円程度だが、それでも二人の収入を合わせて何とかやり繰りしている。

朝食を終え、一郎を見送り、由美は自分の支度を始める。通勤電車に揺られながら、彼女はふと思う。「どうして私たちはこんなに必死に働かなければならないのだろう？」夢見た結婚生活とはほど遠い現実に、時折疲れを感じることもある。

会社に到着すると、由美は仕事に没頭する。デザインの仕事は彼女の情熱の一つだが、それでもストレスはつきものだ。同僚との競争、納期のプレッシャー、そして時には理不尽なクライアント。そんな中でも、彼女はいつも笑顔を忘れない。

夕方、仕事が終わると、由美は一郎のために夕食の買い物をする。スーパーでの買い物もまた、一つの戦いだ。限られた予算の中で、できるだけ健康的で美味しい食事を作るために、彼女は工夫を凝らす。

帰宅後、夕食の準備をしながら、一郎の帰りを待つ。彼が帰ってくると、二人はテーブルを囲む。「今日もお疲れ様」とお互いを労いながら、ささやかな夕食を楽しむ。そのひとときだけが、由美にとっての安らぎだ。

夜、一郎が眠りにつくと、由美は明日の準備を始める。家計簿をつけ、洗濯物を片付け、時には仕事の続きをする。彼女の一日は、24時間では足りないほどに詰まっている。

「もっと楽な生活ができたらいいのに」と由美は思う。しかし、一郎の給料が低いことを責めることはしない。彼が一生懸命働いていることを、彼女はよく知っているのだ。それに、彼らが選んだ道は、自分たちの責任でもある。

「私たちは一緒に頑張っている。それが何より大事なんだ」と、由美は自分に言い聞かせる。そしてまた、新たな一日に備えて眠りにつく。

彼女たちの生活は決して裕福ではないが、愛情に満ちている。由美は、一郎と共に歩むこの道を、決して後悔してはいないのだ。