妻と愛人と家族

傾国の美女末喜（バッキ）

傾国の美女末喜（バッキ）

今から約3500年前、中国は伝説の夏王朝の時代だった。その夏王朝も末期に差し掛かり、最後の王、桀はある時、征服した民から絶世の美女を献上された。その美女の名は末喜（バッキ）。彼女の美しさは、桀の心を一瞬にして奪い去り、彼はすぐに彼女に夢中になった。

桀は、末喜の歓心を買おうと、ありとあらゆる贈り物をしたが、彼女は何一つ喜ばない。彼は、彼女の無表情な顔に次第に焦りを感じるようになった。ある夜、桀は末喜に向かって言った。「何でも願いを言うが良い、叶えてやろう。」末喜はしばし考えた後、静かに言った。「かつてないほど豪華な宮殿を望みます。」

桀はその言葉に大いに喜び、すぐさま命令を下した。彼の指示のもと、無数の労働者が動員され、宮殿の建設が始まった。膨大な資材と人手が投入され、やがて宮殿は完成した。しかし、これだけでは末喜の心を動かすことはできなかった。彼女はさらに言った。「この宮殿を、この世の楽園のように変えたいのです。」

桀はさらに多くの資源を投入し、宮殿の周囲に巨大な池を掘らせた。その池は酒で満たされ、至る所に肉が吊るされた。宴会は日夜開かれ、酒池肉林という言葉が生まれた。これらの贅沢のために、民には重税が課せられ、飢えに苦しむ人々が増えていった。

桀の行いを諫める賢臣たちもいたが、彼は彼らの忠告に耳を貸さず、反対する者は全て処刑した。賢臣たちは次々と桀の元を去り、やがて全ての賢者が離れていった。その中でも特に賢明な者たちは、次第に湯（タング）の元に集まるようになった。湯は桀の暴政を見過ごすことなく、兵を挙げた。

夏王朝の人々は飢えと疲弊に苦しみ、次第に湯の元に希望を見出していった。湯は、桀に対する反乱を起こし、多くの民衆が彼に加勢した。戦いは激しく、夏王朝の最後の時が近づいていた。

ついに、湯の軍勢は桀の宮殿に迫った。豪華絢爛な宮殿は、炎に包まれながら崩れ落ちた。桀は捕らえられ、末喜はその美貌も虚しく、民衆の怒りの的となった。

夏王朝は滅び、新たに湯が殷王朝を建てた。湯は賢明で公正な統治を行い、民衆に平和と繁栄をもたらした。末喜の運命は定かではないが、彼女の存在がもたらした悲劇は、歴史の教訓として語り継がれることとなった。

桀と末喜の物語は、人々に権力と欲望の危険性を教え、統治者がいかにして民を思いやるべきかを伝えるものであった。末喜の美しさは桀を破滅に導き、その美しさの背後に潜む残酷な運命が、歴史の中で繰り返し語られることとなったのである。

歴史に残る教訓として、桀と末喜の物語は後世の人々に伝えられ、絶世の美女が一つの王朝を滅ぼすという恐ろしい事実を忘れさせないものとなった。これこそが「傾国の美女」という言葉の由来であり、美しさの影に潜む力と危険性を示すものであった。