妻と愛人と家族

恐ろしきロシア貴族ダリヤ・サルトゥイコヴァ

恐ろしきロシア貴族ダリヤ・サルトゥイコヴァ

ロシア帝政時代、広大な領地と数多くの農奴を抱える貴族の一人、ダリヤ・サルトゥイコヴァは、世に知られることとなった。その美しい顔立ちと優雅な振る舞いからは想像もつかないほど、彼女の心の奥底には深い闇が潜んでいた。

ダリヤの夫は、結婚からわずか数年で病に倒れた。その後、若くして未亡人となった彼女は、夫から受け継いだ広大な領地を支配することとなった。しかし、その領地には、彼女の支配が恐怖と死で染まることを予感させるものは何もなかった。

ダリヤは、農奴を自らの所有物とみなし、その苦しみを見ることでのみ満たされる狂気に駆られていた。彼女は、夜な夜な農奴を地下室に呼び出し、そこで無慈悲な拷問を行った。沸騰したお湯や油を頭からかけ、焼けた鉄を肌に押し付けるなど、その残虐な行為は常軌を逸していた。

日々、農奴たちの悲鳴が領地のあちこちで響き渡る中、彼女の悪行は次第に広く知れ渡るようになった。しかし、彼女は有力な貴族であり、その出自をたどれば王族にさえ連なる家系であったため、誰も彼女を裁くことができなかった。また、彼女は多くの有力者とコネクションを持っており、その力を利用して自らの行為を隠蔽し続けた。

そんな中、彼女を一人だけ裁くことのできる人物が現れた。ロシアの女帝、エカテリーナである。領民たちから寄せられた嘆願書が、ついに女帝の元に届いたのだ。エカテリーナは、その内容に驚愕し、直ちにダリヤ・サルトゥイコヴァの身柄を確保し、領地を捜索するよう命じた。

ダリヤの取り調べは6年にも及び、その間に明らかになった事実は恐るべきものであった。彼女が拷問死させた農奴の数は138人にのぼり、その全てが女性であったという。その手口は凄惨を極め、犠牲者たちの苦しみは筆舌に尽くしがたいものだった。

捜査の結果を受けて、エカテリーナはダリヤに対する厳しい処罰を下すことを決意した。しかし、驚くべきことに、ダリヤは死罪にはならず、修道院の地下室での静かな余生を送ることとなった。この決定に、多くの人々が失望し、怒りを覚えた。しかし、エカテリーナは「最も酷い刑罰は、自由を奪われ、長い年月を孤独と共に過ごすことだ」と考えていたのかもしれない。

ダリヤは、修道院の冷たい石の壁に囲まれた暗い地下室で、かつての権力と栄華を思い出しながら孤独な日々を過ごした。彼女の心には、かつて自らの手で命を奪った無数の女性たちの顔が浮かんでは消えた。彼女の狂気はそのまま、しかしその狂気を満たす対象はもうどこにもいなかった。

修道院の静寂の中で、ダリヤは自らの行いを振り返り、後悔と悔恨の念に苛まれることはなかった。彼女は最後まで、その行為を楽しんでいたのだ。それが彼女の本質であり、サディストとしての性質は変わらなかった。

しかし、世の中は変わり続ける。ダリヤの死後、彼女の悪行は語り継がれ、彼女の名は恐怖と残虐の象徴として歴史に刻まれた。農奴たちの魂は、ようやく静かに眠ることができるようになったかもしれない。

ダリヤ・サルトゥイコヴァという名は、今もなお、ロシアの歴史の中で異彩を放ち続けている。彼女のような人物が再び現れないように、そして、二度と同じ悲劇が繰り返されないようにと、後世に戒めを残しているのである。