妻と愛人と家族

春秋花壇

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日本史上最悪の悪女、日野富子

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日本史上最悪の悪女、日野富子

静かな夜、京都の町は、千年の歴史を語るように穏やかに眠っている。しかし、その静けさの中に、一人の女性の影が色濃く映し出される。彼女の名は日野富子。日本三大悪女の一人と言われ、その名は悪名とともに広く知られている。

事の始まりは、彼女が室町幕府第8代将軍・足利義政の正室となった時だった。富子は美しい容貌と強い意志を持ち、義政を支える賢妻としての役割を果たしていた。だが、義政との子供が生まれてすぐに亡くなるという悲劇が彼女の心を深く傷つけた。

「これは、義政の乳母が呪ったからだ」

富子はそう信じ、乳母を島流しにした。この一件から、彼女の冷酷さが露わになっていく。義政の側室たちを次々と追放し、己の地位を固めていったが、待望の男児はなかなか生まれなかった。

やむを得ず、義政の弟である義視が次代の将軍に内定した。しかし、富子はついに男の子を産み、その瞬間から新たな野望が芽生えた。自分の子供を将軍にしたいという強い欲望が、やがて応仁の乱を引き起こし、さらに日本の戦国時代の幕開けとなった。

応仁の乱の最中、富子は実家の日野家の資力を駆使して金融業を営み、敵味方を問わず高利貸しを行って私腹を肥やしていった。京に設けた関所の関税を国家に納めず、すべて自分の懐に入れるという暴挙に出た。この関税は本来、京都の寺社の修繕に使われるはずだったため、怒り狂った住民たちが反乱を起こすも、富子はどこ吹く風。ますます貯蓄に務めたというから恐ろしい。

政治に対する関心を失った義政が将軍職を息子に譲ると、富子は母として政治の実権を握り、やりたい放題を続けた。しかし、頼みの息子が25歳で死去すると、彼女は権力の座から転げ落ちることを恐れ、次の将軍をクーデターによって打倒。明応の政変により、義政の甥であった義澄を将軍に据え、自身はその裏で室町幕府を操ることに成功した。

その間も、富子が貯め込んだ資産は膨大なものとなり、現在に換算すると100億円近くになると言われている。民は戦乱で家を失い、食べるものにも事欠いているというのに、富子はその富をひたすらに蓄え続けた。

さらに、夫の義政が銀閣寺を建てた際には、一銭も援助をしなかった。結果、銀閣寺は予算不足で銀箔を貼ることができなかったというケチぶりは、まさに守銭奴と呼ぶにふさわしい。

日本三大悪女と言われるが、淀君や北条政子と比べても、日野富子はその悪女ぶりで頭一つ抜けている。彼女の冷酷さと貪欲さは、他の追随を許さない。

ある日、老いた富子はその豪華な屋敷の中で静かに考え込んでいた。彼女の目には、過去の栄光とともに、多くの犠牲が浮かんでいた。しかし、彼女の心には後悔の色は一切なかった。彼女の信念は一貫していた。

「すべては私のため、そして私の子供たちのためだった」

富子はそう自分に言い聞かせ、再び目を閉じた。彼女の生涯は、権力と富への飽くなき追求で彩られていた。悪女と呼ばれようとも、彼女にとってそれは何の問題もなかった。

彼女の物語は、権力と富が人をどれほど変えるかを示すと同時に、悪女としての一生を貫いた強い女性の姿を映し出している。彼女の日々は、今もなお、日本史の一ページに深く刻まれているのである。








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