妻と愛人と家族

「この泥棒ねこ」 いきなり怒鳴り込んで来た妻

「この泥棒ねこ」　いきなり怒鳴り込んで来た妻

夜が更けて、静かな街にひっそりと佇む我が家。その静寂を突如として打ち破ったのは、怒鳴り声だった。

「この泥棒ねこ！」

驚いて台所から飛び出した僕を迎えたのは、怒りに満ちた妻の姿だった。彼女の手には、何かを挟み込んだようなものが握られている。

「な、なんだ？何が起きたの？」

「このねこ、何度もゴミ箱を漁っては家の中に入ってくるんだって！」

言葉を詰まらせながら、妻が手にしたのは、泥だらけの小さな猫だった。その猫は無邪気な目で僕を見つめている。

「まさか、この子が……」

「まさかって何よ！この泥棒猫が何度も家に入ってくるんだって！」

妻の怒りに押されるようにして、僕は猫を見つめた。その瞬間、何かが心の中でクリックした。

「そうだ！確かに、この子は何度も……」

以前から家の周りで見かける小さな猫。まさか、この可愛らしい子がゴミ箱を漁っていたとは思いもよらなかった。しかし、確かにその姿を見たことがあった。

「ごめん、ごめん！でも、この子が泥棒だったなんて……」

「許さんわよ！この家から出て行け！」

妻の声が荒れ狂い、僕は猫を連れて家を出た。道端で、泥だらけの猫をそっと地面に置くと、彼女は去っていった。彼女の怒りは本当に収まるのだろうか。

猫は僕の足元を見上げ、ひょこひょこと近づいてくる。その目は何かを訴えるように、静かに見つめていた。

「ごめんね、君。でも、もう家には帰れないみたいだ。」

言葉をかけると、猫は小さく鳴き、僕の足元に寄り添った。彼女が帰ってくるまで、一緒にいよう。それが、今の彼女のためにできることだ。


夜が更け、街は静かな闇に包まれていく。猫と一緒に街を歩きながら、僕は考え込んだ。彼女の怒りを受け入れるしかないのか、それとももう一度話し合うべきなのか。

その時、突然、小さな猫が何かを示すように先を指し示した。僕はその方向を見ると、灯りの下にひとりの老人が立っていた。

老人は穏やかな笑顔で猫を見つめ、そして僕に向かって微笑んだ。その笑顔に何か安らぎを感じ、僕は老人のもとに歩み寄った。

「君はその猫を連れているのかい？」

老人の優しい声が響き渡る。僕は頷きながら、猫を見つめた。

「はい、この子を連れています。」

「なかなか立派な猫だね。君の家にも住んでいたのかい？」

「ええ、でも、家を追い出されてしまったんです。」

老人は微笑みながら頷き、そして猫に手を差し伸べた。すると、猫は嬉しそうに老人の手に顔を寄せた。

「彼女は怒っているかい？」

「はい、とても怒っています。」

「それなら、彼女の気持ちを受け入れるしかないね。ただ、彼女も君の気持ちを理解してくれるといいな。」

老人の言葉に、僕は深く頷いた。彼の言葉はまるで心の声を代弁しているようだった。

その後、老人と話をしたり、街を歩いたりしているうちに、僕の心には穏やかな気持ちが戻ってきた。彼女との問題は解決しなければならないが、今は猫と共に静かな夜を楽しむことにする。

「そうだ、この猫をあそこに連れて行こう」

僕は、かわいいあの子のもとにむこうのだった。