お金持ちごっこ

美佳の休日

「美佳の休日」

美佳は週末、普段忙しい仕事に追われる日々から解放される時間を大切にしていた。この日も、朝から晴れ渡る空を見上げて、思わず深呼吸した。何も考えずに、ただ静かに過ごす時間が心地よい。小さな庭に出て、お気に入りの花たちの手入れを始める。彼女の庭には季節ごとに色とりどりの花が咲き誇り、仕事の疲れを癒してくれる場所だった。

彼女が育てているのは、ラベンダー、アジサイ、マリーゴールド、そして今年は特にナデシコに力を入れている。ナデシコは可憐で華やかな花をつけるが、手入れが少し難しい。しかし、その分、咲いた時の喜びもひとしおだ。美佳は手袋をして、土を掘り返しながら、心の中で「今日は何をして過ごそうか」と考えていた。

その時、近所のおばあちゃん、田村さんがやって来た。田村さんは、引退後も元気に一人暮らしをしている隣家の住人で、美佳が子供のころからよく世話になっていた。いつも彼女に世間話を持ちかけ、笑顔で励ましの言葉をかけてくれる存在だ。今日は手に袋を提げて、ニコニコしながらやって来た。

「おはよう、美佳さん。今日はどうしてるの？」田村さんは顔を覗き込みながら、いつものように話しかけた。

「おはようございます、田村さん。おかげさまで、今日は花の手入れをしているところです。」

「花っていいわねぇ、心が落ち着くわ。」田村さんは美佳の手元を見て、花たちが元気に育っているのを見て微笑んだ。その微笑みには、どこか懐かしさと温かさが込められていた。

「今日はどうされたんですか？」美佳が尋ねると、田村さんは少し口を尖らせて言った。

「実はね、秋刀魚が細くて、ちょっと悲しい気分だったのよ。ここのところ、魚屋さんでも秋刀魚は細くて、なんだか食べる気が起きなくて…。」

美佳はその言葉を聞いて、一瞬考え込んだ。確かに、今年の秋刀魚はちょっと細めだった。でも、そんなことで悲しんでいる田村さんの様子が、少し可笑しくも感じた。

「それなら、ちょっといい秋刀魚を買ってきますよ！」美佳は思い立ったように言った。「近所のスーパーに新鮮な秋刀魚があったはずですから。」

田村さんは少し驚きながらも、「ほんと？ありがとう、美佳さん」と嬉しそうに答えた。その笑顔を見て、美佳もなんだか幸せな気分になった。

スーパーに向かうと、美佳は確かに新鮮で大きな秋刀魚を見つけた。魚屋さんの店主が、「今年の秋刀魚は脂が乗ってて、なかなか良いですよ」と言っていたので、早速2尾購入した。家に帰り、秋刀魚をさばく準備を整える。庭で育てたローズマリーとオレガノを少し使って、香り付けにもこだわることにした。

その後、美佳は田村さんを招待し、二人で秋刀魚の塩焼きを囲んだ。食事の準備が整うと、田村さんが「わぁ、いい匂いねぇ」と言いながら、テーブルに座った。美佳は「どうぞ、お召し上がりください」と、秋刀魚を美味しそうに焼き上げた皿に載せて差し出した。

田村さんは一口食べて、満面の笑みを浮かべた。「あら、細くないね、これ！脂が乗っていて、とても美味しいわ。こんな秋刀魚は久しぶりよ。」

美佳も微笑んで、秋刀魚を一口。塩が絶妙に効いていて、香ばしく焼けた皮の部分と、身の柔らかさが口の中で広がった。「本当ですね。こんなに美味しい秋刀魚、久しぶりです。」美佳も満足そうに言った。

田村さんは嬉しそうに、「美佳さん、ありがとうね。こんなに美味しい秋刀魚、もう何年も食べてなかったわ。細くても、食べれば美味しいってことを、改めて実感したわ。」

美佳は温かい気持ちになった。人は小さなことで幸せを感じるものだと改めて思う。仕事やお金のために忙しく過ごしていると、こういった心のゆとりを忘れがちだ。でも、こんな小さなやりとりが、日々の生活にどれだけ温かさをもたらしてくれるかを、今日は改めて感じた。

「これからも、何かあったら声をかけてくださいね。」美佳は田村さんに言った。「一緒にこうやって、食事をしたりお話したりする時間が、私はとても大切に思っています。」

田村さんは笑いながら、「そうね、こういう時間が本当に大切よ。年を取ると、忙しさよりも、こういうゆったりとした時間のほうが幸せに感じるわ。」と答えた。

二人はその後も、ゆっくりと食事を楽しみ、秋の風景を眺めながら、お互いにとって大切な時間を共有した。

美佳は心の中で思った。自分の仕事に打ち込むことも大事だが、こうした小さな幸せも大切にしていきたい。そして、これからも周りの人々と温かい時間を分かち合いながら、人生を楽しんでいこうと心に誓ったのだった。