お金持ちごっこ

アウトゲームの風景

「アウトゲームの風景」

秋の風が涼しく吹き始めた頃、ゲームデザイナーの新谷直樹は仕事場でパソコンに向かい、来月の新作タイトルについて思案していた。新作は大型RPGであり、物語やバトルの「インゲーム」には力を入れていたが、彼にはどこか物足りない気持ちがあった。気づけば徹夜の末に、細かいイベントや戦闘シーンにばかり時間を割いている。直樹はふと、最近流行している「アウトゲーム」に関連するフィードバックの多さに思いを巡らせた。

アウトゲームとは、ゲームそのものの進行以外の部分を指す、広い意味での概念だった。ホーム画面や、設定メニュー、キャラクターのカスタマイズ、そしてプレイヤーが一息つく合間に目にするメッセージや小さな演出——それらすべてが「アウトゲーム」として機能し、プレイヤーがゲーム外でも作品世界を感じる時間を提供していた。ゲーム体験を豊かにするために欠かせない要素だったが、直樹はその重要性にようやく気づき始めていた。

「プレイヤーのリアルな生活に寄り添えるような、余韻を残す部分を作りたいな」

ふと漏れたつぶやきに、隣の席の同僚、ゲームアーティストの美沙が耳を傾けた。「そうね、アウトゲームの部分って、意外と人の心に残るよね。私、実はあのシンプルな設定画面のBGMが大好きなの」

美沙の言葉に直樹は驚いた。ゲームを進めている間は注目されない設定画面や、時には気にも留められないオプションのBGMが、こんなにも心に残る存在だなんて。普段、軽く流されるアウトゲームの部分が、プレイヤーにとってどれだけ大切かを思い知ることになった。

翌日から、直樹はアウトゲームの各要素に対するこだわりを一段と深めていった。設定画面のデザインをさらに親しみやすくし、キャラクターに愛着を持てるような短い台詞を表示することにした。キャラクターがログイン画面でちょっとした日常会話を交わす演出も取り入れ、プレイヤーがふとゲームに立ち返りたくなるような工夫を盛り込んでいった。

完成が近づいた頃、テストプレイヤーたちからのフィードバックには、特にログイン画面や設定画面のメッセージが心に残るというコメントが寄せられた。「ログイン画面でキャラクターたちが私のことを待っている感じがして、毎回嬉しい」「ただの設定画面に深みがあると、なんだかゲームが生活の一部になったみたい」といった感想が並び、直樹の心は次第に満たされていった。

新作の配信が始まり、直樹のゲームは好評を博した。インゲームの冒険に没頭するプレイヤーはもちろん、ログアウトしている時間でもキャラクターや世界観が心に残ると、多くのプレイヤーがSNSにその感想を寄せていた。あるプレイヤーは、「忙しい時でも、ログイン画面でキャラクターに会えると元気が出るんです。設定画面の音楽が懐かしくて、疲れた夜でもゲームを開いてしまう」と言っていた。

数か月後、直樹はあるユーザーのメールを受け取った。その内容は、彼が作り出したアウトゲームの要素がどれだけ心を支えてくれたかという感謝の言葉だった。そのユーザーは仕事で忙しい日々を送っていたが、ゲームのキャラクターたちが待っていてくれるような気がして、少しずつゲームに戻ってくることが心の支えになったというのだ。

直樹はそのメールを読んで、心が熱くなった。アウトゲームが、ただの画面の隙間を埋めるためのものではなく、プレイヤーがゲームと触れ合い、心の中で寄り添うための大切な存在になっていることを確信したのだ。

それからも直樹は、ゲームに新たなアップデートを追加するたびに、アウトゲームの細やかな部分にも注力し続けた。ログインするたびに変わる小さな演出、キャラクターから届くちょっとしたメッセージ、季節ごとの特別な背景音——それらすべてが、プレイヤーがゲームの外でも心に響く瞬間を作り出していると信じていた。

ある日、美沙が直樹に言った。「あなたの作ったログイン画面のメッセージが、私の日常に欠かせないの。なんかね、仕事で疲れてる時も、あれを見ればホッとするのよ」

直樹は微笑んだ。ゲームの中だけでなく、日常の一部にまで作品が溶け込んでいることが、何よりも嬉しかったからだ。

「うん、俺たちの仕事って、ただのゲームじゃなくて、もっと広がるんだよな。リアルの時間に寄り添える作品を作り続けたいよ」

直樹はその思いを胸に、次の作品に取りかかった。彼の新たなテーマは「共有する時間」。ただ遊ぶだけでなく、ゲームがプレイヤーの日常を少しでも豊かにすることができるようにと、アウトゲームの要素を再び見直していった。

画面を越え、生活の一部となるような作品——それが彼の目指す、クリエイターとしての新しい使命だった。