お金持ちごっこ

おいしいものをおいしいねと食べられるのは至福の時

おいしいものをおいしいねと食べられるのは至福の時

「おいしいものをおいしいねと食べられるのは至福の時」――それは、一日の終わりに心から安らげる時間を迎える瞬間である。

陽が沈み、街の喧騒が静かになり始めると、私はいつもの小さなレストランへ向かう。このレストランは、私にとって特別な場所だ。店の名前は「風の詩（うた）」。その名の通り、風が吹き抜けるような軽やかで、心地よい空間が広がっている。

この店を初めて訪れたのは、今から5年前のことだった。当時、仕事に追われ、毎日が忙しすぎて、食事を楽しむ余裕なんてまったくなかった。コンビニの弁当で空腹を満たし、深夜まで仕事を続ける生活が続いていた。心も体も疲れ切っていた私を見かねた友人が、「たまには息抜きしないと」と連れてきてくれたのがこの店だった。

「風の詩」に一歩足を踏み入れた瞬間、どこか懐かしい香りが私を包み込んだ。木の温もりが感じられる内装に、心地よいBGMが流れている。カウンターに座ると、年配の女性がにこやかに迎えてくれた。

「いらっしゃいませ。今日は何にしましょう？」

その時、私はふとした気持ちで「おまかせでお願いします」と口にしていた。特に何を食べたいという強い希望もなかったし、疲れていて考える気力もなかったのだ。

やがて、料理が運ばれてきた。見た目は素朴で、特別な装飾もないが、その香りだけで十分に食欲をそそられた。ひとくち口に運ぶと、口いっぱいに広がる優しい味わいが、心の奥まで染み渡るようだった。何気ない家庭料理のようでありながら、その一皿には料理人の心が込められていることがわかった。

「おいしい…」私は思わず呟いた。

その言葉を聞いた女性が微笑んで、「ありがとうございます」と返してくれた。その瞬間、私は初めて、心から食事を楽しんでいる自分に気づいた。食べることの喜びを、長い間忘れていたことに気づかされたのだ。

それ以来、私は定期的にこの店を訪れるようになった。仕事に疲れた日も、嬉しいことがあった日も、「風の詩」に来ると、心が落ち着き、また明日から頑張ろうと思えるのだ。

今日もまた、私は店に足を運んだ。店内は相変わらず落ち着いた雰囲気で、常連客たちが静かに食事を楽しんでいる。カウンターに座り、顔馴染みの女性に挨拶をすると、彼女は微笑んでメニューを手渡してくれた。

「今日は特製の煮込みハンバーグがおすすめですよ。じっくり煮込んで、肉の旨みを引き出しました。」

その言葉に惹かれ、私はそれを注文することにした。待っている間、ゆったりとした時間が流れていく。仕事の疲れも、心のざわめきも、少しずつ溶けていくような感覚だ。

やがて、煮込みハンバーグが目の前に運ばれてきた。熱々のハンバーグからは、肉汁がじゅわっと溢れ出し、豊かな香りが漂っている。ひとくち食べると、口の中で肉の旨みが広がり、デミグラスソースの深い味わいがそれを包み込んでくれる。

「おいしいね。」私は思わずそう呟き、隣に座っていた常連の男性が微笑んだ。「本当に、ここで食べる料理はどれも絶品ですね。」

「そうですね。」私は笑顔で頷いた。見知らぬ人とでも、こうして自然に食事を楽しみ、会話ができるのも、この店の魅力の一つだ。

食事を終えた後、私はいつものようにコーヒーを注文し、ゆっくりと味わった。心地よい満腹感と共に、心が満たされていく。この時間こそが、私にとっての至福の時だ。

レストランを出ると、夜風が優しく頬を撫でた。空を見上げると、満天の星が輝いている。忙しい毎日の中で、こうしておいしいものを心から楽しめる時間があることに感謝しながら、私は家路についた。

「おいしいものをおいしいねと食べられるのは至福の時」――その言葉が、今日もまた私の心を温めてくれた。