お金持ちごっこ

ネットの海を泳ぐ

ネットの海を泳ぐ

香奈子は、三十代後半に差し掛かる頃、自分の仕事に対する満足感が薄れていることに気づいた。大学卒業後、出版社に入社し、編集者としてのキャリアを積んできたが、長時間労働と厳しい締め切りに追われる毎日に疲弊していた。そんなある日、友人の美咲から「フリーランスのウェブライター」という職業について聞かされた。

「香奈子も一度やってみたら？ 自分のペースで仕事ができるし、場所に縛られないのが魅力だよ」と美咲は勧めた。

香奈子はその言葉に心を動かされ、翌日から少しずつウェブライターの仕事を探し始めた。初めはクラウドソーシングサイトで簡単な記事を書くことから始め、次第に自分の得意なジャンルでの執筆を増やしていった。

最初のうちは、収入が不安定で不安も多かった。しかし、自分の好きなテーマについて自由に書けることや、家で仕事ができることに次第に魅力を感じるようになった。早朝や深夜でも、自分のペースで仕事ができる生活は、香奈子にとって新鮮だった。

ある日、香奈子は旅行記事の依頼を受け、念願の南フランスへの取材旅行を実現させた。美しい風景と美味しい食事に囲まれながら執筆する時間は、まるで夢のようだった。帰国後、香奈子の記事は多くの読者に好評を博し、次々と新しい依頼が舞い込むようになった。

一方で、家族との時間も大切にすることができた。娘の春香が小学校に上がるとき、香奈子は自宅で仕事をしているおかげで、入学式や授業参観にも積極的に参加できた。春香は、母親がいつも近くにいてくれることに喜び、香奈子自身も娘との絆が深まるのを感じた。

「ママ、今日学校でね、新しい友達ができたんだよ」と春香が楽しそうに話す姿を見るたび、香奈子はウェブライターという選択が間違っていなかったと確信した。

時が経ち、香奈子は自分のウェブサイトを立ち上げ、フリーランスのライターとしての活動を広げていった。執筆だけでなく、ライティング講座の開催や他のライターとの交流も楽しむようになり、新しい人々との出会いや学びに刺激を受けた。

香奈子のサイトは、次第に多くの読者に支持されるようになり、彼女の記事を読んでライターを志す人々も増えていった。香奈子は、自分が経験してきた苦労や喜びを後輩たちに伝え、彼らの成長を見守ることにやりがいを感じた。

「ウェブライターとしての生活は決して楽なものではないけれど、自分のペースで仕事ができ、家族との時間を大切にできるのが一番の魅力だと思う」と香奈子は語る。彼女の言葉には、自分の選択に対する確信と、未来への希望が込められていた。

香奈子は今日も、パソコンの前に座り、新しい記事を書き始める。彼女の心には、これからも続くであろうライターとしての旅路への期待が満ち溢れていた。

終わり