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悪役令嬢毒子のダンジョン経営

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 「自分のためにもやるっきゃないでしょう」

悪になりきれない悪役令嬢毒子は、サンシャインに近い小学校の廃屋をお借りして、

ダンジョン経営をしてみることにした。

生徒数は、男女合わせて10名であった。

起床6時、禊の感謝行で始まる。

なんだか、抹香臭いね。

「まあ、最初はこんなもんさ」と嘯いている。

全員で声を合わせて、

「お父さんありがとうございます。お母さんありがとうございます。」

と、寝ていた場所の布団を上げ、掃いて拭き掃除をした。

最初は照れ臭かったのだが、だんだんいろんなことを思い出して、涙が出てくる。

いつも皸だらけで、やせ細って、子供のために一生懸命働いていた母。

百行の基を教えてその後はただに見つめていわざりにけり

と、木の上に立っていつも見つけてくれていた父。

その愛ある親を上手に愛せなくて、毒親呼ばわりしていた毒子。

次から次へととめどなくあふれ出る涙をどうすることもできなかった。

掃除が終わって、みんなで味噌汁を作って、納豆で朝ごはんを食べた。

何の変哲もない質素な食事なのに、これまでに食べたどんなご馳走よりもおいしかった。

参加者のみんなも異口同音に

「おいしいね。こんなおいしいご飯食べたことない」

と賞賛の嵐だ。

ご飯の後は、食器を片付けて、グランドを走った。

喘息などで走れない人は、歩いた。

気温は、32度でとっても暑かったけど、流れ出る汗が心地よかった。

プール掃除もかねて、プールに入ったんだけど、

ちょうど、体が熱がっていたからだろう。

まってましたとばかりにみんなでプールに飛び込んで、

水しぶきをかけあったり、息止めの競争をしたりして、

心からこのひと時を楽しむことができた。

お昼ごはんは、おそうめんだった。しょうがの香りがとても体に効いて、

質素でさわやかな食事だった。

30分だけみんなで仮眠をとった。水泳の後のお昼寝はやっぱり最高だよね。

夕食の買出しにみんなでぞろぞろと出かけたのだが、途中で、

「同じことをしても楽しいーー」と、高評価。

夕飯はみんなでカレーを作り、デザートにスイカを食べて、線香花火をした。

「ああ不思議な一日だ。たいしたカリキュラムじゃないのに、心が喜んでいる」

と、とっても喜んでくれている。

二人一組で、笑う練習もした。

寝る前に、瞑想の練習をして、床に就いた。

喘息の発作を起こす人も、アトピーでかゆがる人もいなかった。

本当に摩訶不思議なダンジョン経営である。
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