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毒子の神様

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 毒子は小さなときから
仏様と神様にご飯とお茶をお供えするのが役目だった
神棚はとても高い位置にあって
踏み台をもってこないと
とても手が届かない
毒子はその踏み台に乗るのが
とても怖かった
手にはお盆に載ったお茶とご飯が入っている
とても不安定なのだ
何度もよろけそうになってしまう

仏様も押入れの上の段に設置されていたので
これもまた踏み台を移動させないと
手が届かなかった

何とか無事にあげ終えると
形だけ手を合わせるのだった

毒子は田植えは嫌いだった
腰が痛くなるし
ヒルがいて足にヒルのあとがついた
おやつのときに食べる
葉らんに巻かれたきなこの塩結びは大好きだった
あぜにみんなで腰をかけて
冗談を言ったり噂話をしたりして
楽しんでいる大人を見るのは
とても愉快だった

毒子の母親は昼間百姓、夜は料理屋をしていた
なので 母親と一緒にお針したり、
お料理をしたり、お片づけをしたりということは
小さなころからなかった

板の間掃除にしても
風呂焚きにしても
お風呂の焚き付けに使う小さな木をとってくることも
鶏やウサギのえさをとってくることも
何度か教えられいつも一人でやっていた

なのでみんなでお話ができる
三時のおやつは誰かの会話を聞ける
唯一の場だったのかもしれない

記憶は定かではないが
3年くらい台風が来て
狩りいれの時期になると
台風で稲が土に埋もれる年が続いた

毒子は母がかわいそうで仕方がなかった
あんなに苦労して働き尽くめに働いているのに
母は極度の貧血であった

結婚前、母は外務省のタイピストをしていた
「百姓ができればたいていの仕事はがまんできる」
と、よくいっていた

働けばちゃんとお金がもらえる仕事と
働いても台風で借金だけ残る仕事では
大きな違いだ

毒子は前にも増して
お供えに真剣になった
心から祈りもした
お供えのときではなくても
太陽や山や田んぼに向かって祈った
その祈りが一度も聞かれることはなかったのだが・・・

どんどん毒子は霊的な病気になっていった
信じることができなくなったのだ
時と予見しえない出来事とは彼らすべてに臨むからである

毒子はどんどん憤りの子になっていった
大きな百姓なのに毎日そばがき
それでも食べられるだけありがたいのかもしれない
毒子はそばがくさくて嫌いだった
母はそばを上手に自分でうっていたが

父は毒子に孔子や孟子を教えてくれた

明日に道を聞かば夕べに死すとも可なり

たしかにそうなのだが・・・

神様に一度お会いして聞いてみたかった

人間がこんなに苦しんでいるのに
あなたはなんとも思わないのですか?と

逃れ道を必ず備えてくださる方だと今は思えるのだが・・・

読んでくださってありがとうございます
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