85 / 113
毒子の神様
しおりを挟む毒子は小さなときから
仏様と神様にご飯とお茶をお供えするのが役目だった
神棚はとても高い位置にあって
踏み台をもってこないと
とても手が届かない
毒子はその踏み台に乗るのが
とても怖かった
手にはお盆に載ったお茶とご飯が入っている
とても不安定なのだ
何度もよろけそうになってしまう
仏様も押入れの上の段に設置されていたので
これもまた踏み台を移動させないと
手が届かなかった
何とか無事にあげ終えると
形だけ手を合わせるのだった
毒子は田植えは嫌いだった
腰が痛くなるし
ヒルがいて足にヒルのあとがついた
おやつのときに食べる
葉らんに巻かれたきなこの塩結びは大好きだった
あぜにみんなで腰をかけて
冗談を言ったり噂話をしたりして
楽しんでいる大人を見るのは
とても愉快だった
毒子の母親は昼間百姓、夜は料理屋をしていた
なので 母親と一緒にお針したり、
お料理をしたり、お片づけをしたりということは
小さなころからなかった
板の間掃除にしても
風呂焚きにしても
お風呂の焚き付けに使う小さな木をとってくることも
鶏やウサギのえさをとってくることも
何度か教えられいつも一人でやっていた
なのでみんなでお話ができる
三時のおやつは誰かの会話を聞ける
唯一の場だったのかもしれない
記憶は定かではないが
3年くらい台風が来て
狩りいれの時期になると
台風で稲が土に埋もれる年が続いた
毒子は母がかわいそうで仕方がなかった
あんなに苦労して働き尽くめに働いているのに
母は極度の貧血であった
結婚前、母は外務省のタイピストをしていた
「百姓ができればたいていの仕事はがまんできる」
と、よくいっていた
働けばちゃんとお金がもらえる仕事と
働いても台風で借金だけ残る仕事では
大きな違いだ
毒子は前にも増して
お供えに真剣になった
心から祈りもした
お供えのときではなくても
太陽や山や田んぼに向かって祈った
その祈りが一度も聞かれることはなかったのだが・・・
どんどん毒子は霊的な病気になっていった
信じることができなくなったのだ
時と予見しえない出来事とは彼らすべてに臨むからである
毒子はどんどん憤りの子になっていった
大きな百姓なのに毎日そばがき
それでも食べられるだけありがたいのかもしれない
毒子はそばがくさくて嫌いだった
母はそばを上手に自分でうっていたが
父は毒子に孔子や孟子を教えてくれた
明日に道を聞かば夕べに死すとも可なり
たしかにそうなのだが・・・
神様に一度お会いして聞いてみたかった
人間がこんなに苦しんでいるのに
あなたはなんとも思わないのですか?と
逃れ道を必ず備えてくださる方だと今は思えるのだが・・・
読んでくださってありがとうございます
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
死を招く愛~ghostly love~
一布
現代文学
村田洋平と笹森美咲は、幼馴染みで恋人同士だった。
互いが、互いに、純粋に相手を想い合っていた。
しかし、洋平は殺された。美咲を狙っている、五味秀一によって。
洋平を殺した犯人が五味だと知ったとき、美咲は何を思い、どんな行動に出るのか。
窓に描いた100の物語<短歌集>
uta
現代文学
~瞼を閉じて生まれた言葉たち~
美しい日本語が好きです。
ただただ日本語の美しさを追求したくて書き溜めた短歌たち。
特に歌の説明は致しておりませんので、自由な解釈でお読み下さい。
テーマは様々です。
ひとつでも皆様の心に届く歌があれば幸せなことです。
シニカルな話はいかが
小木田十(おぎたみつる)
現代文学
皮肉の効いた、ブラックな笑いのショートショート集を、お楽しみあれ。 /小木田十(おぎたみつる) フリーライター。映画ノベライズ『ALWAIS 続・三丁目の夕日 完全ノベライズ版』『小説 土竜の唄』『小説 土竜の唄 チャイニーズマフィア編』『闇金ウシジマくん』などを担当。2023年、掌編『限界集落の引きこもり』で第4回引きこもり文学大賞 三席入選。2024年、掌編『鳥もつ煮』で山梨日日新聞新春文芸 一席入選(元旦紙面に掲載)。
最強女戦士と化した夏子が100万ドル獲得に挑んだ二十日間の物語~余命半年を宣告された嫁が…R3《リターンズ3》
M‐赤井翼
現代文学
1年ぶりに復活の「余命半年を宣告された嫁が…」シリーズの第3弾!ニコニコ商店街・ニコニコプロレスのメンバーが再集結。稀世・三郎夫婦に3歳になったひまわりに直とまりあ。もちろん夏子&陽菜のコンビも健在。復帰第3弾の今作の主人公も「夏子」?夏子は稀世にかわって「ヒロイン」に定着できるのか?
今回の敵は「ウクライナのロシア軍」、「ソマリアの海賊」、「メキシカン・マフィア」と難敵ぞろい。アメリカの人気テレビ番組「目指せ!ミリオネラ!」にチャレンジすることになってしまった夏子と陽菜は稀世・直・舩阪・羽藤たちの協力を得て次々と「難題」にチャレンジ!
「ウクライナ」では「傭兵」としてロシア軍の情報・指令車の鹵獲に挑戦。「ソマリア」では「海賊退治」に加えて「クロマグロ」を求めてはえ縄漁へ。「メキシコ・トルカ」ではマフィア相手に誘拐された人たちの解放する「ネゴシエーター」をすることに。
もちろん最後はドンパチ!
夏子の今度の「恋」の相手は、なぜか夏子に一目ぼれしたサウジアラビア生まれのイケメンアメリカ人アシスタントディレクター!
シリーズ完結作として、「ハッピーエンド」?
皆さんからの感想やイラストをメール募集しながら連載スタートでーす!
8月28日の最終回までお付き合いいただけますと嬉しいです。
いただいた感想やイラストのメールは本編「おまけ」と「RBFC4-H(レッドバロンファンクラブ4-H)」で不定期で公開していきますよー!
ではよろしくお願いしまーす!(⋈◍>◡<◍)。✧♡
徳川泰平の秘密
ハリマオ65
現代文学
*不思議な体験で、過去へ行った後、未来のデータを入手し金儲け。その金で世界を見て見聞を広げる!!
徳川泰平は、浦和郊外で農家で一人っ子で育ったが夢は大きかった。ソロバンが得意で近くの地元の商業高校を出て地元の銀行に就職。大きい夢のため金を作る事が先決と、しっかり金を郵便定額貯金やワリコーで増やした。父の友人の高田善平に一気に稼ぐ方法を聞くと日本株で儲ける事だと教えられた。
なお、この小説は、カクヨム、小説家になろう、noveldaysに重複投稿しています。
三条美玲の炎上
中岡 始
現代文学
SNSで100万人以上のフォロワーを持つ美しきインフルエンサー・三条美玲が、「青海の宿」という洗練された温泉リゾートを訪れます。そこで出会ったのは、誠実で冷静なフロントスタッフ・佐々木隼人。完璧なホスピタリティと端正な容姿に魅了された美玲は、隼人との「特別な関係」を妄想し始め、やがてSNSで彼との関係を匂わせた投稿を繰り返すようになります。
一方で、青海の宿では美玲の要望が次第にエスカレートしていく中、プロフェッショナリズムを重んじる総支配人・松永やマーケティングディレクター・田村綾子が慎重に対応を進めます。しかし、ついに美玲が不満をSNSでぶつけたことで、事態は炎上騒動へと発展し、美玲の影響力が予想外の形で試されることに。
彼女のフォロワーたちが彼女を支持するのか、それとも…。ホテル側が守り抜こうとする「真のホスピタリティ」とは何か。そして、果たして美玲はこの騒動から何を学ぶのか?ホテルとインフルエンサーの複雑な駆け引きと成長を描く物語が、いよいよ幕を開けます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる