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悪役令嬢 毒子 わざとじゃないもん

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「位置についてヨーイ ドン」

ピストルが鳴る。

フライングでもなくいいスタートが切れたと思った瞬間、毒子は転んでしまった。

「ち」

最後まで頑張ろうと腕を振り、足を上げて、45度の姿勢を保ち、顎を引いて走りに走った。

風を切る。ここちいいーー。白いテープを切った。

なんと、転んだのに一位だったのだ。

陸上部の後輩がバスタオルでくるんでくれる。

キャプテンの浅野先輩もにこにこしている。

結果オーライだったことに毒子は気を良くしていた。

「わざと転んだんだろう」

「はー?」

こいつ、まじむかつくと、顔を見ると、

田島淳君だった。

この人、小学1年生の時に、初めて隣に座った人。

毒子は田島君を嫌いではなかった。

むしろ、少し好意を寄せていた。

英語が得意で、少しひょうきんで、美しく整った顔、同じ陸上部員だった。

特に合宿の時なんかはその美しさに心奪われていた。

摂食障害で低体重とはいえ、毒子はまるで雑誌から抜け出てきたようなスタイルだった。

豊かな胸、しまったウエスト、桃のようなお尻。

ラブレターを毎日もらうような、中には、抱きたいとかえげつないものも含め、

男子からは、好かれていると思いこんでいた。

「わざとじゃないもん」

毒子は、珍しくべそをかいている。

いつもなら睨み返すとか、言い返すとかをする勝気な毒子が、

しおらしく泣きそうになってるのを見て、注目していた男子は慌てた。

「田島、謝れよ」

キャプテンの先輩も、真顔で心配して、

「二中対抗で影の群大会予選ともいわれてる本大会にわざと転ぶようなやつじゃないよな」

と、擁護してくれた。

田島君は、軽い気持ちでからかったのにまじにとらえている本人と、周りに引っ込みがつかなくなったようで、とても複雑な顔をしていた。

毒子は,これ以上、田島君がみんなから何か言われるのもかわいそうだと思って、軽く会釈をすると、

自分たちの待機場所に行き、体育座りしていた。

そこに、普段は目立たない同級生の男子が来て、毒子めがけて、そばにあった砂を投げた。

毒子は、一瞬のことで何でこいつに絡まれているのかわからなかった。

その砂の一部が毒子の大きな目に入り、毒子はボロボロと涙を流した。

持っていたタオルで顔や洋服にかかった砂を払うと、彼の前につかつかと寄り、少林寺拳法の段蹴りがとぶ。彼の顔面すれすれで止めた。

「本当はどうなんだよ」

「わざとじゃないもん」

中学二年はほんと訳が分からない年頃だ。

愛の反対は、憎しみではなく無関心である。

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