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あれ
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あれ
「ママー、虫捕まえてきたよ」
小学校一年生の息子は、学校から嬉しそうに帰ってきた。
みると、茶色の紙袋を持っている。
「何の虫」
田舎育ちの毒子だが、虫はあまり得意ではなかった。
特に、かまきりとアメリカンゴキブリはまったく受け付けなかった。
ほんとに嫌いなので、年2回はバルサンを炊いて、徹底的に駆除をした。
この家を買う時も、念入りに業者さんに虫が出ないようにしてもらっていた。
なのに・・・。
「これ」
にこにこして息子は袋を差し出す。
「どらどら」
そーと袋の中を覗いた。
「ぎゃー」
毒子はあらん限りの声を発する。
隣の家の友達が心配して吹っ飛んできた。
「どうした」
「息子が大きなゴキブリを学校からもってかえ。あわわわ」
今にも腰を抜かしそうになっている。
マザー2のゲームの中のまさに「あれ」である。
「あははは」
「忍君、お母さん虫だめだって」
「せっかく捕まえてきたのに」
「まっててね」
隣に住む友達は殺虫剤を持ってきた。
しゅーと吹きかけると、しばらく時間を置いて、動かないことを確かめ、
「トイレに流しておいで」
といった。
息子はいやいや、トイレに虫を流し、流れたことを確認すると、
心配そうにママの顔を覗き込む。
「ごめんね、知らなかったんだ」
「ああ、もうびっくりした」
毒子が育った山口県萩市には、あんな大きなゴキブリはいなかった。
茶羽ごきぶりの小さいやつはみかけたが、ゲンゴロウのように黒光りする「あれ」
「まったく、この子は油断もすきもあったもんじゃない」
と、息子をしげしげと眺めながら思う。
この家を買ったとき、事務手続きがまだ終わってない状態のときに息子とここにきた。
息子はあたらしい新築の家に喜び、
「ぼくのいえ、ぼくのいえ」
と、喜んでいた。
毒子は、この子を産んだときから一戸建ての庭付きの家がほしくて探していた。
シングルマザーで生んだだめに、負い目があった。
何かをこの子に残してやりたいと思ったのだ。
念願の家をようやく見つけ、あと少しで手続きも終わるというときに、
息子は、毒子たちが帰ったのを確かめると、
自分の友達とこの家に窓から入った。
しかも、畑で散々遊んだ泥足で・・・。
そして、足跡だらけにしたらしい。
仲介業者さんから、
「急いで掃除の業者さんをいれます」
と、電話をいただいた。
息子が犯人だと知ってか知らずかお咎めはなかった。
確かに、毒子は息子に負い目があるし、
盆栽のようにこじんまりとまとまっては欲しくなかった。
「しかし、物には限度というものがあるだろう」
まったく男というものは、こんなに小さいのに女とはやることなすこと、
桁外れだった。
幼稚園なのに、たばこやさんから友達とタバコを盗み、
川原ですっていたり想像もできないようなことばかりする。
隣のブロック塀に近所の工事現場からペンキを持ってきて、
友達と一緒に塗りたくったり、
そんなにやんちゃがすきならと雨の日の水溜りで、泥遊びを一緒にしようとすると、
「お洋服が汚れるじゃない」
と、べそをかいたり。
自分の息子ながら、異星人を見ているような気持ちだった。
子どもを教育するばかりが親の義務でなくて、
子どもに教育されることもまた親の義務かもしれないのである。
子供を通して、親にならせてもらってるんだろうな。
「ママー、虫捕まえてきたよ」
小学校一年生の息子は、学校から嬉しそうに帰ってきた。
みると、茶色の紙袋を持っている。
「何の虫」
田舎育ちの毒子だが、虫はあまり得意ではなかった。
特に、かまきりとアメリカンゴキブリはまったく受け付けなかった。
ほんとに嫌いなので、年2回はバルサンを炊いて、徹底的に駆除をした。
この家を買う時も、念入りに業者さんに虫が出ないようにしてもらっていた。
なのに・・・。
「これ」
にこにこして息子は袋を差し出す。
「どらどら」
そーと袋の中を覗いた。
「ぎゃー」
毒子はあらん限りの声を発する。
隣の家の友達が心配して吹っ飛んできた。
「どうした」
「息子が大きなゴキブリを学校からもってかえ。あわわわ」
今にも腰を抜かしそうになっている。
マザー2のゲームの中のまさに「あれ」である。
「あははは」
「忍君、お母さん虫だめだって」
「せっかく捕まえてきたのに」
「まっててね」
隣に住む友達は殺虫剤を持ってきた。
しゅーと吹きかけると、しばらく時間を置いて、動かないことを確かめ、
「トイレに流しておいで」
といった。
息子はいやいや、トイレに虫を流し、流れたことを確認すると、
心配そうにママの顔を覗き込む。
「ごめんね、知らなかったんだ」
「ああ、もうびっくりした」
毒子が育った山口県萩市には、あんな大きなゴキブリはいなかった。
茶羽ごきぶりの小さいやつはみかけたが、ゲンゴロウのように黒光りする「あれ」
「まったく、この子は油断もすきもあったもんじゃない」
と、息子をしげしげと眺めながら思う。
この家を買ったとき、事務手続きがまだ終わってない状態のときに息子とここにきた。
息子はあたらしい新築の家に喜び、
「ぼくのいえ、ぼくのいえ」
と、喜んでいた。
毒子は、この子を産んだときから一戸建ての庭付きの家がほしくて探していた。
シングルマザーで生んだだめに、負い目があった。
何かをこの子に残してやりたいと思ったのだ。
念願の家をようやく見つけ、あと少しで手続きも終わるというときに、
息子は、毒子たちが帰ったのを確かめると、
自分の友達とこの家に窓から入った。
しかも、畑で散々遊んだ泥足で・・・。
そして、足跡だらけにしたらしい。
仲介業者さんから、
「急いで掃除の業者さんをいれます」
と、電話をいただいた。
息子が犯人だと知ってか知らずかお咎めはなかった。
確かに、毒子は息子に負い目があるし、
盆栽のようにこじんまりとまとまっては欲しくなかった。
「しかし、物には限度というものがあるだろう」
まったく男というものは、こんなに小さいのに女とはやることなすこと、
桁外れだった。
幼稚園なのに、たばこやさんから友達とタバコを盗み、
川原ですっていたり想像もできないようなことばかりする。
隣のブロック塀に近所の工事現場からペンキを持ってきて、
友達と一緒に塗りたくったり、
そんなにやんちゃがすきならと雨の日の水溜りで、泥遊びを一緒にしようとすると、
「お洋服が汚れるじゃない」
と、べそをかいたり。
自分の息子ながら、異星人を見ているような気持ちだった。
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