上 下
28 / 113

いじめバスターズ参上

しおりを挟む
いじめバスターズ参上

「いじめバスターズ参上、トゥ!!」



「なにやってんだ、毒子」



死神は毒子のまじなアクションに吹き出してしまった。



「モモレンジャーじゃないんだから」



「うるさい、だまれ、お怒りモードなの」



「なんでだよ」



「しらないわよ、そんなの病気に聞け」



「あはは、お前らしいな、サイコパスの虫でも動きだしたのか?」



「だから、知らないって」



「どうでもいいけどさ、死神、いじめで自殺する子のリスト見せて」



「あいよ」



毒子は何も言わず、リストを閲覧していた。



みるみるうちに毒子の深い瞳は涙であふれていく。



憐れみ深い優しい色に変わる。



「神様、お願いがあるんだけど」



「ん?なんじゃ」



「姿が見えなくなる特技をください」



「男みたいなことを言うな」



「ください」



「女湯でものぞくのか」



「あううう」



「まあ、よい。よかろう」



「ありがとう」



「毒子、延命はだめだぞ」



「わかっておるわ」



毒子は、リストに記載されていた明日死ぬ予定の女の子のもとに行った。



萩原 のぞみ 11歳。小学5年生。



小柄な彼女は、今、体育館の倉庫にいた。



全裸であった。



着ていた洋服は、隣のマンションのごみ置き場に捨てられていた。



しゃがんでガタガタと震え、泣いている。



ランドラルの中の本は、やぶかれその辺に散らばっていた。



毒子が近づこうとする、



「こないでー」



と、叫んだ。



毒子は、着ていたコートを脱ぎ



「着なさい」



と、いった。



萩原 のぞみちゃんは、慌ててコートを羽織る。



恥ずかしいのだろう。



「かなしいね。みじめだね」



少女は声を上げて泣き出した。



「こわかったね」



こくっと小さくうなずいている。



「もう、大丈夫だよ、おいで」



大きく手を広げると、萩原 のぞみちゃんは恐る恐る近づいてきた。



とりあえず、毒子の家に連れてきた。



新しい下着を出し、洋服を出して



「けじめつけにいこうか」



と、誘った。、



「?」



いじめた子たち3人は、公園にいた。



線路のそばの公園で、彼女たちはブランコのそばでたむろしていた。



「ほんと、うざいたらない」



「なまいきなのよね」



「正義ずらしてさ」



「何様だと思ってるのかしら」



怒りはまだやみそうにもなかった。



毒子は、彼女たちの姿を確かめると、



萩原 のぞみをハグし、



「さあ、今から別な場所に行くわ。お礼を言ってらっしゃい」



「怖いからいやだ」



「みじめな負け犬のママでいいの?」



しばらく答えは返ってこなかった。



毒子は姿を消した。



「わたしは、あなたのそばにいるわ」



「すがたはみえなくても、ほら、手をつないでいるのはわかるわよね」



萩原 のぞみちゃんは小さくうなずく。



「誇り高くあれ」



銀杏の葉は色づきたわわに実ったぎんなんの実が木漏れ日を浴びて、



とても美しかった。



頬を伝う風は、さやかで秋たけなわを謳歌している。



萩原 のぞみちゃんは、大きく深呼吸をすると、



いじめっこたちの前にまっすぐに歩いて行った。



むろん、見えないのだが毒子と手をつないでいる。



「ありがとうございました」



「はー、あんた頭おかしいんじゃないの」



「なにいってんの」



「ばっかじゃないの」



萩原 のぞみちゃんはそれを聞くと、もう一度深々と頭を下げて、



「ありがとうございました」



と、丁寧におじぎをした。



毒子は手を握り返した。



「さあ、帰ろう」



耳元で囁く。



萩原 のぞみちゃんは、回れ右をするとゆっくりと歩いてその場を立ち去った。



いじめっこたちは、何が起きているのかわからず、



お互いに顔を見合わせている。



毒子は萩原 のぞみちゃんと手をつなぎ、テレポーターで悪



役令嬢 毒子の経営する極めて不親切なダンジョンにたどり着いた。



「えらいね、けじめつけたね」



「とってもすてきだったわよ」



萩原 のぞみちゃんは、少し笑顔になって、



「ありがとう」



と、言った。



「さあ、おなかすいたでしょう。みんなとご飯を食べよう」



不登校の子、40人のいる住まいに連れて行った。



「新しいお友達です。萩原 のぞみちゃん」



萩原 のぞみちゃんは、



「よろしくおねがいします」



と、おじぎをした。



以前のようにおどおどとはしていなかった。



今日はカレーライスだった。



福神漬けも添えて、サラダとフルーツヨーグルトもついている。



「いただきます」



「のぞみちゃん、どこから来たの」



「何歳?何年生?」



カレーを食べながら会話が弾む。



「俺たち、全員いじめられっ子、よろしくな」



萩原 のぞみちゃんはちょっとびっくりしている。



「ご飯食べ終わったら、腐葉土作るの手伝って」



毒子はにこにこしながらみんなに話しかける。



「はーい」



公園の枯れ葉を集め、木でできた柵の中に入れた。



「ありがとう」



いくつかのグループに分かれ、追いかけっこをしたり、



おしくらまんじゅうをしたり、手遊びをしたりしだした。



萩原 のぞみちゃんも、しっかりグループに入っている。



「よかったね、明日死ぬとしても、多分自殺じゃないはず」



あなたは自分に勝ったのよ。おめでとう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

春秋花壇
現代文学
注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

かあさんのつぶやき

春秋花壇
現代文学
あんなに美しかった母さんが年を取っていく。要介護一歩手前。そんなかあさんを息子は時にお世話し、時に距離を取る。ヤマアラシのジレンマを意識しながら。

徒然草

春秋花壇
現代文学
徒然草 つれづれなるままに、日暮らし硯に向かひて、心に移りゆくよしなし事を、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

親子

春秋花壇
現代文学
親子

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

ぐれい、すけいる。

羽上帆樽
現代文学
●時間は過ぎる。色を載せて。 近況報告代わりの日記帳です。描いてあるのは、この世界とは別の世界の、いつかの記録。とある二人の人生の欠片。1部1000文字程度、全50部を予定。毎週土曜日に更新します。

処理中です...