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徘徊はお好きですか

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徘徊はお好きですか



「しずおばあちゃんがいなくなりました」



「しずおばあちゃん、さがしてください」



「しずさーん」



「しずさーん」



担当の職員さんが探し始めて、すでに30分が経過しているとのこと、



みんなはいくつかの班をくみ、手分けして探し始める。



しずおばあちゃんは、孤独死予定でここに来た人だ。



もうすぐ、寿命が来るのだけど、



悪役令嬢 毒子としては、保身に関係なく、



みんなに看取られて亡くなってほしかった。





余談だが、昨日、身罷るという言葉を教わった。



新しい言葉を覚えても、使う機会がなかなかないとすぐに忘れてしまう。



毒子は幻覚幻聴のせいで、ほとんど学校に行っていないから、



真剣に頑張らないとと思っていた。



身罷る



[動ラ五(四)]《身が現世から罷まかる意》死ぬ。特に、中古では、自己側の者の死の謙譲語。「安らかに―・る」

「いもうとの―・りにける時よみける」〈古今・哀傷・詞書〉



「話がそれてごめんなさい」





それから一時間以上探しても見つからなかった。



仕方なく、警察に捜索願を依頼する。



痴呆症だからだ。



腰巻一つで、バスに乗ってしまうおばあちゃんもいる。



本人が幸せなら、それも仕方ないかなと思うのだが・・・。



幾人かの巡査も加わって、捜索したが、見つからない。



しまいには自衛隊まで加わって、山のほうの捜索までしたのだが、



何処にもいなかった。



毒子はすでに何時間か立っていることを考慮に入れて、



空き家がある方向に向かって歩き始めた。



「この辺も随分変わったな」



今では、ほとんど人が住んでいない。



「しずおばあちゃーん」



大きな声を出して歩いていくと、



黒い影が動いたような気がした。



神様のほうを見ると、静かにうなずいている。



急いで、駆け寄った。



しずおばあちゃんだ。



「いました。発見しました」



急いでスマホで、本部に連絡を取った。



レスキューが担架をもってこちらに駆け寄ってくる。



「よかったーー」



口々に喜びの声を上げている。



しずおばあゃんは、申し分けなさそうに、



「気が付いたらここにいて、叱られそうだから隠れていた」



悪びれる様子もなく、笑っている。



「あははははは」



ほっとすると、思わず叱り飛ばしてしまいそうになる気持ちを抑えて、



笑い飛ばしてごまかした。



「そうだね、こんなにいっぱいの人が探してたら、びっくりするよね」



と、担当の職員は、しずさんを毛布でくるんだ。





体に異常がないことを医者の診断で確認すると、



薪をくべて、ストーブのそばに横たわらせた。



子どもたちも窓の外から、口々に、



「よかったねー。帰ってこれてよかったー」



と、大喜びをしている。



「本当にいい共同体になったね」



「1000人以上の家族、前代未聞だね」



みんな感慨深げに話してる。



次の日、徘徊などでいなくなった場合の緊急連絡網がスタップ会議で話し合われた。



こうして、少しずつだが、いろんなことに対処してこれたことに心から感謝する。



みんなの力は素晴らしい。



まさに三子教訓状さんしきょうくんじょうである。



中国地方の戦国大名・毛利元就が1557年(弘治3年)に3人の子(毛利隆元・吉川元春・小早川隆景)に書いた文書。その中に、三矢の教えと呼ばれるものがある。



晩年の元就が病床に伏していたある日、隆元・元春・隆景の3人が枕許に呼び出された。元就は、まず1本の矢を取って折って見せるが、続いて矢を3本を束ねて折ろうとするが、これは折る事ができなかった。そして元就は、「1本の矢では簡単に折れるが、3本纏めると容易に折れないので、3人共々がよく結束して毛利家を守って欲しい」と告げた。息子たちは、必ずこの教えに従う事を誓った。



まして、3本ではなく、職員やボランティアを含めると、1200本近い矢だ。



ちょっとやそっとじゃ、折れないよね。



折れるとしたら、たぶん、ものすごい強いと慢心していた部分かもしれない。



「柳に雪折れなし、竹もだね」



しなやかでたおやかなものは、一見弱いようだが、ものすごく強いものなのかもしれない。



その夜、見つかったお祝いに、お雑煮をみんなで食べた。



老人が喉を詰まらせたりしないように、細心の注意を払ったことは、



言わずもがなだ。



毒子はふと、不思議なことに気が付いた。



寿命が決まってると言うことは、



それまでにどんな事件が起きても、それで命がなくなることはないということだ。



「それが頭でわかっていたとしても、



やはり、心は探してしまうんだろうな。」



と、独り言を言っている。







誰かが雪のまだ解けぬ小川からセリを取ってきてくれたが、



ようやくその時、昔父の言った、



「大人になれば今は嫌な香草でも、高級なぜいたく品になるさ」



といった意味が分かった。



銀世界一面のこの地方での、セリは、まさに春の訪れを告げる、



超高級品に思えた。



雪は降る。雪の結晶が静かに降りてきて、



ダイヤモンドダストがキラキラと舞い散る。



山の上に大きな光が揺らめき、固まり散りオーロラを作っていく。



今日はいつもより、色数も多く、一段と幻想的に見える。



春はそこまで来てるのだが・・・。
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