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過疎はお好きですか

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「朝に道を聞かば夕べに死すとも可なり」

一、

錦帯橋は うららかに

秋吉台は さやかなり

秀麗の地ちに 偉人出いじんいで

維新の偉業 為せるかな

誇と使命しめい 忘わすれめや

山口県の 我らみな

二、

周芳穴戸の いにしえを

つぎし大内 毛利らが

代々の栄の 跡とめて

伝統永き 文化の地ち

誇と使命しめい 忘れめや

山口県の 我らみな

三、

二つの海に 海の幸

地中の宝 山の富

世に捧ぐべき 天然の

資源は尽きぬ ふるさとの

誇と使命 忘れめや

山口県の 我らみな


ご存知、山口県民の歌である。


中学1年生で村始まって以来の悪と言われた毒子であったが、

どうも中途半端に悪にも善にもなり切れないでいた。

オールオアナッシングの毒子にとっては、

なんとも気持ちの悪い日々を過ごしていた。

あれから、随分いろんな修行をして、

今までにない特殊能力も身に着けた。

悪役令嬢 毒子は、心無い作者によって、

ここのところ、スタイリッシュな諒ちゃんに、

主人公を奪われているのが、なんとも納得できなかった。

「散々、懺悔させといて、切り捨てるつもりなの」

「そうはさせるか」

お怒りモード炸裂である。

ここは、96.97.98代 安倍晋三総理大臣のおひざ元。

山口県萩市のむつみ地区である。

毒子が育ったころは、村であった。

それがどんどん過疎化して、萩市に合併されてしまった。

「村、始まって以来の悪というなら、錦を飾ってあげようじゃないの」

毒子は不敵な笑みを浮かべてこの真っ白で辺り一面、銀世界の中で高らかに笑っている。

毒子には、テレポートの能力が与えられた。

この、ど田舎でいったい何をしでかそうというのだろうか。

とくと、お手並み拝見することにしてみよう。

毒子は、このだだっ広い雪原で、

いきなり黙想を始めた。

雪が降り、雪の結晶が舞う、スターダストがきらきらときらめいている。

「ひさびさだなー」

「か・い・か・ん」

七色の光は集束し、ゆらゆらとカーテンのように揺らめいている。

美しいオーロラである。

この世の楽園である。

そこに強い光が現れ、たちまち、テレポーターが現れた。

うようよと何かがうごめいている。

決して、それらは美しくはなかった。

腰の曲がったもの、足の萎えたもの、生命力のないもの、

生きる希望を失ったもの、1000人の70歳以上の老人たちである。

死神の孤独死リストに載っていた東京都に住む60日分の人たちだった。

東京では毎日、孤独死をする人たちが21人、いやこの暑さではもっとかもしれない。

「皆の者、遠路はるばる大儀であった」

何時の時代だよ。

「ここでしばらく、ゆるりとするがよい」

何もないところなのに、凍死させるつもりなのだろうか。

「あそこのくえかけた、家の中に薪もある。自由に使うがよい」

「まもなく、政府も動き出すであろう。

そなたたちには、経験という尊い知恵がある。存分に使うがよい」

まるで、モーセのエジプト脱出のように、

突然選ばれた民は、ここに集結し、

ちがーう、勝手につれて来られ、困惑している。

政府はこの事態にどう対処するのだろうか。

3時間くらいして、「特別対策本部」なるものが、設立された。

違憲だと言われる自衛隊によって、

大量の食糧が運び込まれている。

近隣の村人、ああ、すでに村ではなかった。

集落の住人によって、火が起こされ、

1000人の老人たちは、思い思いに動き始めた。

雪だるまを作って遊んでいるもの、

かまくらを何人かで作っているもの、

おしくらまんじゅうをしているもの、

寒さのために、足踏みをして温めようとしているもの、

自分の自由意思で、自由を満喫している。

政府は、土地を借り上げ、とりあえずのねぐら確保を始めた。

安倍晋三首相の腕の見せ所だ。

わいわいがやがやと随分、にぎやかな集団となっている。

残念なことに、この無謀ともとられる計画の首謀者を誰も知らない。

この日本の本州の最南端ともいえる山口県で、

いままさに、静かなるクーデターが起きているとも知らずに。

楽しいお祭りでもあるかのように、人々は笑顔だった。

さあー、悪役令嬢 毒子のダンジョン経営はじまるよー。
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