縁（えにし)

夏の思い出とレース編み

夏の思い出とレース編み

11歳の夏休み、私は初めてレース編みというものを知った。きっかけは、隣に住むおばあちゃんが手先の器用さを活かして作っていた、繊細で美しいレースのドイリーだった。白い糸で編まれたその作品は、まるで雪の結晶のようで、見ているだけで心が洗われるような気がした。

「おばあちゃん、それ、どうやって作るの？」と私は興味津々で尋ねた。

おばあちゃんは穏やかな笑みを浮かべて、「レース編みって言うのよ。やってみる？」と答えてくれた。

それから、おばあちゃんは毎日少しずつ、私にレース編みの基本を教えてくれることになった。最初は糸と針の扱いに苦戦した。細い糸が指に絡まってしまい、思うように編めない。小さなミスが積み重なり、何度も編み目が崩れてしまう。泣きたくなるほど悔しい気持ちにもなったけれど、おばあちゃんは決して怒らず、優しくアドバイスをくれた。

「最初はみんなそんなものよ。大事なのは、ゆっくり焦らずに進むこと。編み目一つ一つに心を込めるんだよ。」

おばあちゃんの言葉に励まされ、私は少しずつコツを掴んでいった。最初は簡単な模様から始めて、徐々に複雑なパターンにも挑戦するようになった。糸の緊張感や針の動かし方を覚え、目が揃ってくると、自分でも驚くほどきれいなレースができるようになった。

レース編みをしていると、時間があっという間に過ぎることに気づいた。外では夏の日差しが照りつけ、友達が公園で遊ぶ声が聞こえてくるけれど、私はレース編みの世界に夢中だった。おばあちゃんと一緒に過ごす静かな時間は、どこか特別で、心が落ち着く場所だった。

「次は何を作るの？」と、おばあちゃんに聞いたとき、彼女はニッコリと笑って、「自分でデザインしてみたら？」と言った。

自分でデザインなんて、私にはできるのか不安だった。でも、おばあちゃんの勧めに従い、紙に鉛筆で簡単な模様を描いてみた。花の形や波模様、星のような形を組み合わせて、自分だけのオリジナルデザインを考えた。何度も試行錯誤しながら、少しずつ形にしていく過程は、とても楽しかった。

そのデザインをもとに、おばあちゃんのアドバイスを受けながら編み進めた。最初は難しくて、何度もやり直しをしながら、ようやく完成したときの喜びは言葉にできないほどだった。完成したレースは、小さな花を中心に波模様が広がるデザインで、おばあちゃんも「よく頑張ったね」と褒めてくれた。

私はそのレースをお母さんに見せた。お母さんは驚いたように目を丸くし、「こんなに素敵なものが作れるなんて、すごいじゃない！」と喜んでくれた。家のリビングのテーブルにそのレースを敷くと、家の中が一段と明るくなった気がした。

それからというもの、私はますますレース編みに夢中になった。新しい模様やデザインを考えるのが楽しくて、毎日少しずつ編み進めるのが日課となった。時折、おばあちゃんとお茶を飲みながら、編み方や新しいアイデアを話し合う時間が、私にとって一番の楽しみとなった。

夏休みが終わる頃には、私はいくつかのレースを完成させ、それらを友達や家族にプレゼントした。友達もその美しさに驚き、家族も私の成長を喜んでくれた。

「この夏休み、一番の思い出は何？」と友達に聞かれたとき、私は迷わず答えた。「レース編みを教えてもらったこと！」と。

11歳の夏休み、私はおばあちゃんとの特別な時間を通じて、手作りの楽しさと達成感、そして忍耐力を学んだ。夏の終わりに感じた、少し寂しい気持ちと共に、そのレース編みは私の心にしっかりと刻まれ、今でも大切な宝物の一つとして残っている。