縁(えにし)

春秋花壇

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12歳 星空の約束

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「星空の約束」

タクミが12歳になると、彼の世界はまた少しずつ変わり始めた。小学校最後の年ということもあり、周囲の友達は次のステップに向けて準備を進めていた。中学校に進学する不安や期待が交差する中で、タクミもまた、自分なりに未来を見つめようとしていた。

しかし、タクミにとって新しい環境に対する不安は、他の子どもたちよりもずっと大きなものだった。彼の感覚は繊細で、少しの変化でもストレスを感じやすい。そのため、これからの生活がどうなるのか、何が待ち受けているのかを考えると、夜も眠れない日々が続いた。

タクミの母ナオミは、息子の不安を察していた。彼女は毎晩、タクミが落ち着くまで隣に寄り添い、静かに話を聞いていた。タクミが星空を見上げて心を落ち着ける習慣は続いていたが、最近はその星空に向かって語りかけることが増えた。

「ねえ、お母さん。僕、もし中学校で友達ができなかったらどうしよう?」タクミは星空を見上げながらぽつりと呟いた。

ナオミはそっとタクミの肩に手を置き、優しく微笑んだ。「タクミ、友達は自然とできるものだよ。無理に作ろうとしなくても、タクミのペースでいいんだよ。新しい環境は確かに不安かもしれないけど、タクミにはタクミの良さがある。それを理解してくれる人は必ず現れるよ。」

タクミは母の言葉を聞き、少し安心したようだったが、それでも心の中には不安が残っていた。彼はもっと具体的なことを知りたかった。どうすれば新しい環境でうまくやっていけるのか、その答えが欲しかったのだ。

その夜、タクミは夢を見た。夢の中で彼は、広い夜空に浮かぶ星々と会話をしていた。星たちは、タクミに対して優しく語りかけてきた。「タクミ、君は特別な存在だよ。君が持っている感性や視点は、他の誰にもないものなんだ。だから、君はそのままでいい。焦らず、自分のペースで進んでいけば、君の道は必ず見つかる。」

目が覚めたタクミは、その言葉が心に深く刻まれたことを感じた。それは彼にとって、大きな勇気を与えてくれるものだった。

そして迎えた春、タクミは中学校に進学した。初めての登校日は、緊張と期待が入り混じる中でのスタートだった。新しいクラスメートたちに囲まれ、タクミはいつも通り自分のペースで一日を過ごしていた。

しかし、予想に反して、タクミはクラスの中で徐々に注目を集めるようになった。それは、彼がある日、科学の授業で星座に関する知識を披露したことがきっかけだった。タクミの深い知識と情熱に、クラスメートたちは驚き、興味を持ち始めたのだ。

「タクミ君、すごいね!どうしてそんなに星座に詳しいの?」クラスメートの一人が興奮気味に尋ねた。

タクミは少し戸惑いながらも、ゆっくりと答えた。「僕、星が好きなんだ。夜空を見てると、なんだか落ち着くんだ。星にはいろんな物語があるし、それを知るのが楽しいんだ。」

その言葉をきっかけに、タクミはクラスの中で少しずつ受け入れられていった。彼の興味や特技が、周囲とのコミュニケーションのきっかけとなり、少しずつ友達の輪が広がっていった。

ある日、タクミは新しい友達の一人と一緒に夜空を眺める約束をした。「タクミ君、今夜一緒に星を見ようよ。君が教えてくれる星座の話、もっと聞きたいんだ。」その言葉にタクミは喜び、心の中に暖かい気持ちが広がった。

その夜、タクミは母親と一緒に庭で星空を見上げながら、友達との約束を思い出していた。星空の下で交わされる約束、それはタクミにとって、新しいステージでの希望の光となった。

ナオミはタクミの横顔を見つめ、そっと言葉をかけた。「タクミ、君が見つけた星たちのように、君自身も輝いているよ。だから、自信を持って進んでいこう。君が信じている道が、必ず君を導いてくれるはずだから。」

タクミは母の言葉に頷き、星空を見つめ続けた。そして、心の中で強く誓った。「僕は僕のペースで、ゆっくりでもいいから、自分の道を歩いていこう。そして、その道の先にある未来を、楽しみにしよう。」

タクミの12歳の一年は、新たな挑戦と共に、少しずつ自分を受け入れ、成長する時期となった。星空の下で交わされた約束は、彼の心に深く根付き、これからも彼を支え続けるだろう。
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