縁（えにし)

継母の影

継母の影

シンデレラの次姉ですが、この世界でも私の仕事は他人の尻拭いですか？

「なんで、私がまた…」

アナスタシアはため息をつきながら、今自分が置かれている状況を嘆いていた。彼女はかの有名なシンデレラの次姉。元の世界では、妹のシンデレラが王子と結ばれた一方、彼女と長姉は物語の中で悪役として描かれていた。

しかし、現実は違った。アナスタシアは物心ついたときから家族の中で一番しっかり者で、母親と姉、そして妹の後始末をするのが日常だった。そんな彼女がまたしても異世界に転生してしまったのだ。

転生した先は、魔法と騎士が存在する中世風の世界だった。彼女は貴族の娘として生まれたが、どういうわけか、彼女の家族はこの世界でも次々と問題を起こしていた。

「これって、やっぱり私が他人の尻拭いをする運命なのかしら…？」

アナスタシアはふと自分の人生を振り返る。この世界での彼女は、家の財政を支えるために朝から晩まで働き詰めだった。父親は戦場で亡くなり、母親は社交界での交際を楽しむだけ。長姉は結婚適齢期にも関わらず、貴族の娘らしからぬ派手な行動ばかりを繰り返し、妹は無邪気に自分の夢を追いかけていた。

「お嬢様、お茶の時間でございます。」

使用人がやって来てアナスタシアに声をかける。彼女は一瞬、現実に戻り、微笑みを浮かべた。

「ありがとう、少し休ませてもらうわ。」

彼女はお茶の席につき、湯気の立つ紅茶を一口飲むと、ほんの少しだけ気持ちが落ち着いた。

「アナスタシア、お前の妹がまたやらかしたんだ！」

突然、部屋に飛び込んできたのは、長姉のドリゼラだった。彼女は怒りをあらわにして、何やら言葉を続けた。

「街の市場で、シンデレラがまた人助けをして、貴族たちの目に留まってしまったのよ！」

アナスタシアは再びため息をついた。シンデレラの行動は確かに善意から来ているが、周りの状況を考えない無鉄砲さがたまに問題を引き起こすのだ。

「わかったわ。とにかく、今すぐ妹を連れて戻るから、あなたはこれ以上騒ぎを大きくしないで。」

アナスタシアは冷静に言い聞かせ、席を立った。彼女はドリゼラを宥めるのも日常茶飯事で、妹の行動の尻拭いをするのも同様だった。

「また、か…。でも、これが私の役目なのかもしれない。」

アナスタシアは街へと向かう馬車に乗り込み、考え込んだ。彼女は昔から家族のために自分を犠牲にしてきた。しかし、この世界でも同じことを繰り返すことが果たして本当に正しいのだろうか。

市場に到着すると、彼女はシンデレラを見つけた。シンデレラは無邪気に笑いながら、子どもたちと楽しそうに遊んでいた。その光景を見て、アナスタシアは少しだけ心が温まるのを感じた。

「シンデレラ、もう帰る時間よ。」

シンデレラは振り返り、姉を見つめると笑顔で駆け寄ってきた。

「お姉さま、見て！ 私、みんなを助けたの！」

その言葉にアナスタシアは微笑んで答えた。

「ええ、よくやったわ。でも、今度はもっと注意して行動しなさいね。」

彼女はシンデレラの手を握り、優しく導いた。家族のために尽くすことに疲れを感じながらも、どこかでそれが自分の使命だと信じていた。

馬車に乗り込むと、シンデレラは何気なく言った。

「お姉さまはいつもみんなを助けてくれるのね。」

その言葉にアナスタシアは驚き、しばらく言葉が出なかった。しかし、彼女はただ微笑んで答えた。

「そうね、それが私の役目だから。」

心の中で「これからも続けるか…」と考えつつも、アナスタシアは決心を新たにした。たとえそれが尻拭いであっても、自分にしかできない役割があることを受け入れ、彼女は再び家族のために立ち向かっていくことを誓った。