縁(えにし)

春秋花壇

文字の大きさ
上 下
66 / 80

14歳 気が付いたら植物人間になっていた

しおりを挟む
「気が付いたら植物人間になっていた」

14歳のミユキは、目を覚ました。だが、目を開けても視界は真っ暗で、何も見えなかった。最初は夢でも見ているのかと思ったが、奇妙なことに、全身が動かない。体中の感覚がまるで消えてしまったかのように何も感じない。ミユキは焦って声を出そうとしたが、喉が引きつったように、音が出ない。

「動けない…動けないよ…」

心の中で叫んでいるのに、誰にも伝わらない。ミユキはパニックになりそうになったが、冷静になるために必死に自分を落ち着かせようとした。何が起こったのか、記憶を手繰り寄せようとするが、頭の中は霧がかかったようにぼんやりとしていて、昨日のことさえも思い出せない。

突然、ミユキの耳にかすかな音が届いた。それは遠くから聞こえてくるような、低い声だった。集中して聞き取ろうとするが、まるで水の中から聞こえてくるように、言葉ははっきりしない。しかし、声が段々と大きくなり、何かを話していることがわかる。

「…脳波は安定しています。奇跡的に心臓も正常に機能していますが、やはり意識は戻らないでしょう…」

その言葉を聞いた瞬間、ミユキの心臓は凍りついた。意識は戻らない?どういうこと?もしかして、今、自分は目を覚ましているけど、誰にも気づかれていないってこと?

「…脳波は安定していますが、やはり植物状態です。意識が戻る可能性は限りなく低いですね…」

またしても耳に入ってきた言葉に、ミユキの心は深い絶望に包まれた。植物状態?自分が植物人間になってしまったというのか?

ミユキは信じられない気持ちでいっぱいだった。どうしてこんなことに?何が起こったのか全く思い出せない。学校で友達と話していた、家に帰って家族と夕食をとっていた…その先の記憶が途切れている。

気づけば、聞こえてくる声は途絶え、再び静寂が訪れた。ミユキは、孤独感に押し潰されそうだった。自分がここにいることを、誰にも知らせることができない。何も感じられない、何もできないこの状態で、一体どうすればいいのか。

「助けて…お願い、助けて…」

心の中で何度も叫び続けるミユキ。しかし、その声は誰にも届かない。時がどれだけ経ったのか、ミユキにはわからなかった。外の世界と自分との間には、見えない壁があって、どれだけ頑張っても突破できない。

ミユキは、絶望の中で、かすかな希望を探していた。もしかしたら、いつか誰かが自分の存在に気づいてくれるかもしれない。もしかしたら、何かの奇跡が起こって、再び動けるようになるかもしれない。

だが、その希望も薄れていく。時間が経つにつれ、ミユキの心はどんどんと沈んでいった。どうやら、この状態が永遠に続くのかもしれないという現実を、受け入れざるを得ないのだ。

「動けないよ…助けて…誰か…」

何度も何度も心の中で叫んだが、返ってくるのは深い静寂だけだった。外の世界からの音が消え、ミユキは完全に孤立してしまった。

時間の感覚を失い、ミユキの思考も次第に鈍くなっていった。やがて、彼女はもう叫ぶこともやめ、ただ虚無の中に漂っていた。希望を捨て、ただ存在しているだけの感覚が続く。自分がまだ生きているのか、それさえもわからなくなってきた。

「動けない…」

最後の力を振り絞って、もう一度だけ心の中で叫んだ。しかし、その声も薄れていき、やがてミユキの意識は深い闇の中に吸い込まれていった。

ミユキが再び目を覚ますことは、もう二度とないかもしれない。それがどれだけの時間続くのか、誰にもわからない。ただ、彼女は永遠に動けないまま、静かな絶望の中で時を過ごし続けるだけだった。


ミユキの意識は深い闇の中に落ちていったが、完全に消え去ることはなかった。彼女は薄れゆく意識の中で、かすかな音を聞き取ることができた。それは、今までの無機質な機械音とは異なり、どこか優しく、懐かしい声だった。

「ミユキ…聞こえているなら、返事をして…」

その声は母親のものだった。ミユキは必死に答えようとするが、喉は引きつったままで、何も言葉にならない。ただ、その声が響くたびに、彼女の心に暖かいものが流れ込んでくるのを感じた。

「ミユキ、諦めないで。お母さんはここにいるよ。ずっと待ってるから、戻ってきて。」

その言葉に、ミユキの心に小さな光が灯った。どれだけの時間が経ったのか、彼女にはわからないが、この声だけははっきりと聞こえる。そして、その声に導かれるように、ミユキはもう一度、目を覚まそうと必死にもがき始めた。

動かない体の中で、わずかにでも指先を動かそうと努力する。しかし、やはり何も感じられない。それでも、母親の声が途切れることなく彼女に語りかけてくる度に、ミユキは諦めずに挑戦を続けた。

「頑張って…あなたならできる。お母さんがずっと見守っているから…」

その言葉に支えられ、ミユキは心の中で叫び続けた。「動け…動け…!」と、何度も何度も繰り返し叫ぶ。そしてついに、ある日、ミユキはほんのわずかな感覚を感じた。指先に、微かにでも反応があったのだ。

その瞬間、ミユキの中に希望が再び湧き上がった。少しでも動けるのなら、きっと元に戻れる。母親の声が彼女を励まし続け、ミユキはさらに力を込めて体を動かそうと努力した。

次第に、微かな感覚が腕全体に広がり、少しずつだが確かに動かせるようになった。そして、ある日、ミユキはようやく目を開けることができた。

視界には、涙を浮かべた母親の姿が映っていた。「ミユキ…やっと、目を覚ましてくれたのね…!」母親はミユキの手をしっかりと握りしめ、涙声で言った。

ミユキはまだ言葉を発することができなかったが、母親の温かい手の感触を感じながら、必死に微笑みかけた。彼女は絶望の闇から抜け出し、再び現実の世界へと戻ってきたのだ。

それからの日々は、リハビリの連続だったが、ミユキは少しずつ体の感覚を取り戻していった。母親や医師、看護師たちの支えを受けながら、彼女は再び歩けるようになるまで回復していった。

「ミユキ、よく頑張ったね。もう大丈夫よ。」母親は微笑みながら、ミユキの手を握り続けた。

ミユキはその言葉に応えるように、母親に微笑み返した。まだ完全に元の生活に戻るには時間がかかるかもしれないが、彼女には再び未来が開けていた。

母親の愛と支えが、ミユキを絶望の淵から救い出したのだった。再び歩き出した彼女には、これからの人生が待っている。そして、どんな困難が待ち受けていても、彼女はもう一度立ち上がることができるだろう。それは、彼女が絶望の闇から這い上がり、自らの力で光を見つけ出したからだ。














しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ぬいぐるみ界の日常記録

奈留美
児童書・童話
これは、ぬいぐるみ界で暮らすぬいぐるみ達のお話。

山狗の血 堕ちた神と地を駆けし獣

月芝
児童書・童話
この世のすべて、天地を創造せし者。 それを神と呼び、大地に生きる者たちはこれを敬う。 ヒト以外の生き物が成りし者。 これを禍躬(かみ)と呼び、地に生きる者たちはこれを恐れる。 なぜなら禍躬にとって、その他の生き物はすべて食料であり、 気まぐれに弄び、蹂躙するだけの相手でしかなかったからである。 禍躬に抗い、これと闘う者を禍躬狩りという。 そんな禍躬狩りが相棒として連れている獣がいる。 風のように大地を駆け、険しい山の中をも平地のように突き進み、 夜の闇を恐れず、厳しい自然をものともしない。 不屈の闘志と強靭な肉体を持つ四つ足の獣・山狗。 これはコハクと名づけられた一頭の山狗の物語。 数多の出会いと別れ、戦いと試練を越えた先、 長い旅路の果てに、コハクはどのような景色をみるのか。

図書室ピエロの噂

猫宮乾
児童書・童話
 図書室にマスク男が出るんだって。教室中がその噂で持ちきりで、〝大人〟な僕は、へきえきしている。だけどじゃんけんで負けたから、噂を確かめに行くことになっちゃった。そうしたら――……そこからぼくは、都市伝説にかかわっていくことになったんだ。※【完結】しました。宜しければご覧下さい!

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

Elden Ring

慈眼川まる
児童書・童話
世紀末悪魔サタンの復活により、地球は滅びようとしていた。汚い言葉が地上に蔓延っていた。破滅型の愛が地球を破壊していた。 しかし、愛ゆえに英雄になった人間も居た。彼らは特別な知性があった。彼らは何かに導かれルティア星という精神世界の星にコンタクトする。彼らの愛は奇跡を生むのか?

完結《フラワーランド》ありちゃんとなぞなぞ? No.1 作画 てんとう🐞むしぱん&お豆

Ari
児童書・童話
なぞなぞとクイズ さぁ、みんなで考えよう♪ 毎日。一問出せたらいいなと思います。 僕の都合で絵は後からですが、イラストレイターの、お二人が描き溜めてくれています!公開お楽しみに! (イラストいれたら、近況報告でお伝えしますね!) 柔らか頭目指すぞー! 作画 てんとう🐞むしぱん    Twitterアカウント@picture393    お豆    Twitterアカウント@fluffy_tanpopo

完結《フラワーランド》ありさんと読めそうで読めない漢字 

Ari
児童書・童話
スマホで調べれば簡単な世の中だけど、スマホがないと漢字が読めない書けないが増えていませんか? ボケ防止の暇つぶしに、おばあちゃん。おじいちゃん。お子さんなどなど。みんなでどうぞ! 読めたら楽しいを集めてみました!

城下のインフルエンサー永遠姫の日常

ぺきぺき
児童書・童話
永遠(とわ)姫は貴族・九条家に生まれたお姫様。大好きな父上と母上との楽しい日常を守るために小さな体で今日も奮闘中。 全5話。

処理中です...