縁(えにし)

春秋花壇

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11歳 「すもももももももものうち」

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「すもももももももものうち」

夏休みの中盤、11歳の陽菜(ひな)は、久しぶりに学校へ登校する日を迎えた。夏休みの登校日は特別なものだった。普段は静まり返った校舎が、この日だけは友達の笑い声や話し声で賑わう。

朝早く、陽菜はリュックに宿題を詰め込み、学校へ向かった。学校に着くと、いつもの教室が少し違って見えた。窓から差し込む夏の強い日差しが、教室を明るく照らしている。友達と久しぶりに会うことができる喜びに胸が高鳴った。

教室に入ると、すでに何人かの友達が集まっていた。「おはよう!」と陽菜が声をかけると、みんなが笑顔で手を振り返した。夏休みの話題で盛り上がりながら、久しぶりの再会を楽しんでいた。

そんな中、担任の先生が教室に入ってきた。「みんな、久しぶりだね!元気に夏休みを過ごしているようで安心したよ。今日は楽しいことをしようと思っているんだ。」先生はニコニコしながら、何かを持っていた。

「今日は、みんなで早口言葉をやってみようと思います。」先生が手にしたのは、たくさんの紙が入った小さな箱だった。

「早口言葉?」とクラスメートの一人が不思議そうに聞いた。陽菜もそれに続いて、「どうやるの?」と先生に尋ねた。

「みんなで順番にこの箱から紙を引いて、書かれた早口言葉をできるだけ速く、そして正確に言うんだ。間違えずに言えるかどうか、チャレンジしてみよう!」

その提案に、教室は一気に盛り上がった。みんなで声を合わせて笑いながら、早口言葉の挑戦が始まった。

最初に挑戦したのは、クラスの中で一番活発な健太くん。彼が引いた紙には「東京特許許可局」という早口言葉が書かれていた。健太くんは一生懸命に「とうきょうとっきょきょかきょく」と繰り返したが、最後には舌が絡まってしまい、教室中に笑いが起こった。

次は陽菜の番だった。彼女が引いた紙には、「すもももももももものうち」と書かれていた。見た瞬間、陽菜は驚いた。「こんなに難しいの、できるかな?」と少し不安になった。

しかし、陽菜は深呼吸して気持ちを落ち着けた。「やってみよう!」と心の中で決意し、口を開いた。

「すもももももももものうち!」

最初の一回はうまくいった。クラスメートたちも「すごい!」と驚きの声を上げた。陽菜はさらに挑戦しようと思い、もう一度言ってみた。

「すもももももももものうち、すもももももももものうち!」

今度は少しつまずいたが、何とか言い切ることができた。教室は大歓声に包まれ、みんなが陽菜の挑戦を褒め称えた。

「陽菜、すごいよ!」「ほんとにうまく言えたね!」友達の声に、陽菜は頬を赤らめながらも嬉しそうに笑った。

その後も、クラスメートたちは次々と挑戦を続けた。先生が提案した「早口言葉大会」は、予想以上に大盛り上がりとなり、クラス全員が楽しんでいた。難しい早口言葉に挑戦して、言葉がうまく出てこない時の滑稽な様子に、みんなで大笑いするのはとても楽しかった。

最後に先生が、「みんな、今日は本当に頑張ったね!」と拍手をしながら言った。「早口言葉でこんなに楽しめるなんて、みんなの素晴らしいところだよ。お互いに笑い合い、助け合いながら、こうして一緒に時間を過ごすのは本当に大切なことだね。」

その言葉に、陽菜は心から同意した。クラスメートと過ごしたこの時間は、彼女にとって特別な思い出となった。笑顔でいっぱいの教室、友達の笑い声、そして「すもももももももものうち」と挑戦した瞬間が、彼女の心に深く刻まれた。

夏休みの登校日は、陽菜にとって特別なものとなった。早口言葉を通して、クラスの絆が一層深まったことを感じた。学校からの帰り道、陽菜は心地よい疲れとともに、これからの夏休みも思い切り楽しもうと決意した。

陽菜はその日、家に帰ると、早速家族にも「すもももももももものうち」を披露した。母親と弟は陽菜の早口言葉に挑戦し、何度も失敗しながら大笑いしていた。家族全員が笑顔に包まれるその瞬間、陽菜は今日の学校での経験が、こんなに楽しい時間を生み出すとは思ってもみなかった。

「早口言葉って、こんなに楽しいんだね!」と母親が笑いながら言った。

陽菜はにっこりと微笑み、「うん、すごく楽しかったよ!」と答えた。

その夜、布団に入った陽菜は、今日の楽しい出来事を思い返しながら眠りについた。明日もまた、新しい楽しみが待っているかもしれないと、期待に胸を膨らませながら。







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