秋くさの 千草の園に 女郎花 穂蓼(ほたで)の花と たかさあらそふ

秋くさの千草の園に

 秋くさの　千草の園に　女郎花　穂蓼(ほたで)の花と　たかさあらそふ

伊藤左千夫(出典不明)


秋くさの千草の園に

秋の風が吹く中、美咲は静かな庭園に立っていた。ここは彼女が幼いころから訪れている場所で、色とりどりの草花が咲き乱れ、秋の訪れを告げていた。特に、女郎花と穂蓼が織りなす風景は、彼女にとって特別な思い出が詰まった場所だった。

千草の園
「今日は、穂蓼がどんな風に咲いているかな」と、美咲は微笑みながら歩き出す。彼女の目の前には、金色の穂を立てた女郎花が風に揺れ、穂蓼もその隣で白く小さな花を咲かせている。二つの花が寄り添うように咲いている姿は、まるで友情を象徴しているかのようだった。

美咲は花の香りを吸い込みながら、子供の頃のことを思い出した。母と一緒にここに来て、花を摘んだり、草むらで遊んだりしていた。穂蓼の花を指でなぞりながら、「あの頃は、何も考えずに楽しめたな」と、彼女は心の中で呟いた。

思い出のかけら
ふと、彼女の心にある記憶がよみがえった。ある秋の日、彼女は母と一緒にこの庭に来て、花の名を教えてもらった。「女郎花は、愛を求める心を表しているんだよ」と、母は優しく教えてくれた。その言葉が美咲の心に深く刻まれていた。

しかし、時が経つにつれ、母は病を患い、彼女はその支えとなるべく、忙しい日々を送ることになった。気づけば、女郎花の意味を考える余裕もなくなっていた。「もっと、母と一緒に来ていればよかった」と、美咲は心の中で自分を責めた。

再生の瞬間
美咲は、ふと足を止め、女郎花と穂蓼の間に立ち尽くした。風が優しく吹き、草花が揺れる。彼女は深呼吸し、静かな時間に身を委ねた。この瞬間、彼女は自分の心が再生するのを感じた。

「秋は、終わりと始まりの季節なんだ」と美咲は思った。自然が持つ力強さを感じながら、彼女は過去を手放し、新しい自分を受け入れる決意を固めた。過去の悲しみや後悔も、今の自分を作る一部であることに気づいたからだ。

未来への一歩
「これからは、もっと自分を大切にしよう」と心の中で決意し、彼女は穂蓼の花を摘んだ。小さな花束にして、持ち帰ることにした。その花が、母との思い出をいつまでも繋いでくれると信じていたからだ。

美咲は、穂蓼と女郎花の美しさを心に刻みながら、庭を後にした。秋の風が吹き抜ける中、彼女は新たな一歩を踏み出す勇気を持っていた。過去の悲しみを抱えながらも、これからの未来を信じて進む。心の中で何かが変わり始めた瞬間だった。

「ありがとう、女郎花と穂蓼。私の心を癒してくれて」と、美咲は小さな声で呟いた。自然が持つ力を信じ、新しい道を歩んでいく覚悟を持って、彼女は歩き出した。