お金がない

春秋花壇

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お金がないっていうだけで

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「お金がないっていうだけで」

私の人生は、ずっとお金と一緒に走ってきた。学校でも、仕事でも、恋愛でも。お金がないという理由で、何度も足を引っ張られ、何度も妥協し、何度も我慢した。でも、どうしても我慢できない瞬間があった。

それは、私が二十五歳の春、友達との久しぶりの旅行を計画した時のことだ。

「ねえ、今年こそみんなで海外行こうよ!」と、私の親友の美咲が言い出した。

その一言に、私も乗り気になった。私たちのグループは、高校時代から続く親友で、卒業してからは忙しくて、なかなか会えなくなっていた。久しぶりの再会に、海外旅行というのは夢のようだった。美咲はすでに旅行先も決めていて、安い航空券を探す手伝いをしてくれると言った。

でも、私はすぐに現実を思い出した。お金がないという現実が。

正直なところ、私は今、お金に余裕がない。今の仕事は安定しているけれど、給料は決して高くなく、生活費や月々の支払いで精一杯だ。それに、親からの仕送りもないし、貯金だってほとんどない。

「旅行なんて、私、無理だよ。」と言おうとしたが、口をつぐんだ。

理由は分かっている。友達を裏切りたくないからだ。特に、美咲は私にとって、ただの親友じゃない。彼女は、いつも私を元気づけてくれて、私が落ち込んでいる時は、いつも励ましてくれる人だった。だから、今回はどうしても一緒に行きたかった。

「私もお金が心配だけど、分割払いにすれば大丈夫だよ。もう少しで給料日だし。」

美咲は、そう言って笑った。それがまた、私を苦しめる。

「分割払いで大丈夫、か…」

私は心の中でつぶやいた。お金を借りてまで行く旅行なんて、本当は行きたくない。お金のことを気にして、途中で楽しめなくなってしまう自分が目に見えるからだ。でも、こんなこと言ったら、みんなにどう思われるだろうか? 「お金がないから行けない」と言ったら、きっと友達は心配してくれるだろう。でも、それも面倒くさい。そして何より、私はそんなことでみんなをがっかりさせたくなかった。

「まあ、何とかなるでしょ。」

私は結局、軽く笑って返事をした。

それから数週間後、私は支払いのことを気にしながら、何度も旅行の準備をしていた。チケットを予約したり、ホテルを決めたり、観光地を調べたりするのは楽しい。でもその楽しさも、すぐにお金のことを考えると消えてしまう。

「ほんとうに、私は何をしているんだろう?」と思うことが何度もあった。美咲たちは楽しんでいるのに、私はお金を払うたびに胃が痛くなる。途中で払えなくなったらどうしよう、キャンセルしなければならなくなったらどうしよう、そんな心配が頭の中をぐるぐる回っていた。

そして、旅行当日。私はどうしても、心から楽しむことができなかった。飛行機に乗って、異国の地に足を踏み入れる瞬間、私の心は浮き立っていた。でも、目の前に広がる景色や美味しい料理を前にしても、私は次々とお金のことを考えてしまう。

「これを食べるお金は、どうするんだろう?」

「今度はタクシーを使うのか、それとも歩くべきか…?」

「お土産は、買うべきかな、どうしよう…?」

友達が楽しそうに笑っている隣で、私はただただお金のことで頭がいっぱいだった。少しでも余計に使ってしまったら、次の月の支払いが苦しくなる。それが恐ろしい。

「どうして、私はこんなに我慢しないといけないんだろう?」

その思いが、私をどんどん追い詰めていった。お金がないっていうだけで、こんなに楽しめないなんて、正直言って嫌だった。

結局、旅行が終わった後も、私は何も心に残らなかった。友達との楽しい時間はあったはずなのに、私の心はずっとお金のことでいっぱいだったから、結局何も覚えていない。今でもその旅行が、どうだったか、ほとんど覚えていない。

「いーーだ。」

私は口の中でそう呟いた。

お金がないって、ほんとうにどうしようもない。だからこそ、私たちは、もっと素直に自分の気持ちを大切にしなければならないんだと、痛感した。どんなにがんばっても、お金だけでは幸せにはなれない。でも、それを認めることができず、結局、我慢を重ねる自分がいる。

だから、これからは少しだけ、自分を大切にしてみようと思う。お金がないからって、ずっと我慢してばかりじゃ、きっともっと辛くなるだけだ。今は無理して楽しむことなく、無理なく自分のペースで生きていきたい。

そのために、まずは一度立ち止まって、自分を許すことから始めようと思う。それが、最初の一歩かもしれない。

「いーーだ。」


そういいながら、白いご飯に塩コショウをしてオヨネーズであえて食べている。

「よっこうおいしいんだよね、これが」




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