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春秋花壇

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冬のデフレ、夏のインフレ

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冬のデフレ、夏のインフレ

1930年、アメリカ。
暗黒の木曜日から1年が経ち、町中には沈黙が漂っていた。かつて活気に満ちていた工場や商店のシャッターは閉まり、空っぽの通りを寒風が吹き抜けていく。経済の冷え込みと共に、人々の暮らしも凍りついていた。

デフレの影
ジェームズ・グレイはシカゴ郊外で小さな雑貨店を営んでいた。だが、最近の生活は苦しいものだった。品物の価格はどんどん下がり、客足も途絶えていた。「安くすれば売れる」と思っていたが、誰も買う余裕がないことに気付いた。

「誰も金を持っていないんだ」と彼は妻に言った。「値段を下げても、意味がない。」

外では近所の農夫が牛乳を路上に捨てていた。価格が下がりすぎて運送費すら賄えないからだ。「物が余っているのに、誰も買えない」とジェームズは苦笑いを浮かべた。デフレの影は、街全体を覆っていた。

ニューディール政策の始まり
1933年、フランクリン・ルーズベルト大統領が就任すると、状況は徐々に変わり始めた。公共事業が増え、失業者の手にわずかながら現金が戻ってきた。ジェームズの店にも少しずつ客が戻り、彼は久しぶりに仕入れを増やすことができた。

だが、彼はその兆しに一抹の不安を感じていた。価格が上がり始めたのだ。「良いことのはずだが、少し速すぎる気がする」とジェームズは心の中で呟いた。

インフレの急襲
1935年、物価の上昇は急激なものとなった。ルーズベルト政権が打ち出した金本位制の放棄とドル安政策、さらには政府の積極的な支出が市場に大量のマネーを流し込んだのだ。ジェームズの店では、今度は商品の確保に苦しむようになった。

「牛乳が2倍の値段だなんて、誰が予想した?」ジェームズは溜息をついた。客たちも不満を漏らし始めていた。「仕事が増えたが、これじゃ暮らしていけない」と彼はつぶやく声を耳にした。

インフレの波は加速度的に広がり、ジェームズもまたその中で翻弄された。仕入れ値が上がる一方で、客足は再び遠のいていった。

変化への適応
そんな中、ジェームズは新たな商売の方法を考えた。「必要な物を最小限で売るんだ」と彼は決め、量り売りを始めた。客たちは必要な分だけ買い、無駄を出さないようにした。店の棚は以前ほど豊かではなかったが、ジェームズの工夫は少しずつ実を結んだ。

それでも、彼は一抹の不安を抱え続けた。「この激しい変動は、私たちをどこに連れて行くのだろう」と。

経済の四季
1939年、戦争の足音が聞こえ始めた頃、ジェームズは街の景色が一変しているのを目にした。かつてのデフレの冷たさも、急激なインフレの熱も和らぎ、経済は安定し始めていた。戦争需要が新たな雇用を生み出し、消費も活発化していった。

彼は、冬から夏へ、そして新たな春を迎えたような気がした。経済の変化は、自然の四季のように巡っていくものかもしれない。だが、その巡りの中で人々が感じる痛みは、決して軽いものではなかった。

ジェームズはある日の閉店後、店の奥にある椅子に腰掛け、窓から夕日を眺めた。「デフレもインフレも、どちらも人々を苦しめる。その中で、私たちはどうやって生き抜いていくべきなのか」と彼は考えた。

その答えを得ることはできなかったが、彼は信じていた。未来にはきっと、より良い日々が待っていると。







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