お金がない

春秋花壇

文字の大きさ
上 下
930 / 965

影のネットワーク

しおりを挟む
「影のネットワーク」

蒸し暑い成田空港のロビーに、人々の注目を集める一団が到着した。制服姿の警察官に囲まれ、無表情で歩くのは清原淳と呼ばれる30歳の男とその仲間3人。彼らは手錠をかけられ、静かに警察の車両に連れ込まれた。

清原ら4人が関与した詐欺事件は、彼らがカンボジアを拠点に巧妙に計画したものだった。電話を使い、相手に信頼させ、巧みに心理を操作することで、数多くの高齢者から金を騙し取った。彼らは特に「介護職員」を装い、被害者に対して偽りの安心感を植え付ける手口を用いた。長野県の80代女性もその一人であり、清原たちはわずかな会話で彼女の信頼を得、275万円もの現金を奪ったのだ。

清原たちが「ビジネス」と称したこの詐欺行為は、ひとつのグループによる孤立した犯罪ではなかった。むしろ、カンボジアやフィリピンといった東南アジア地域にまで広がる国際的なネットワークが関わっていた。清原たちは現地で複数の仲間とともに拠点を設け、そこから日本国内の高齢者をターゲットに電話をかけ続けていたのだ。犯行の一部始終はスクリプト化されており、まるで一つの舞台劇のように計画されていた。

ある日、清原は「大口の顧客」がいると連絡を受けた。相手は東京在住の資産家で、認知症を患っているらしい。清原はそのターゲットに向けて慎重に準備を整えた。彼らのシナリオは、あくまで「介護施設からの紹介」を装うことから始まる。清原は相手が不安に感じるよう、ゆっくりと丁寧に話し、「少しでも安心していただきたい」と繰り返し伝えた。

数日後、彼はそのターゲットから多額の振り込みを受けた。これが数えきれないほど繰り返された犯罪の一つに過ぎないと考えると、清原は胸が高鳴るのを感じていた。彼にとって、この行為はもはや日常の一部となり、罪悪感も薄れていた。

しかし、そんな彼らの生活に転機が訪れる。彼らの活動が次第に警察の目に留まり、カンボジアからフィリピンへと逃れたが、そこでも足がつき始めていた。捜査本部が動き出し、現地当局と連携して彼らの身柄を確保する計画が進められていたのである。

7月のある日、清原らはフィリピンの小さな隠れ家で待機していた。部屋の空気は不気味なまでに静まり返っており、彼らも何か異変を感じていた。そこへ突然、ドアが勢いよく開かれ、数人のフィリピン警察が現れたのだ。

「動くな!」という叫び声とともに、彼らは全員その場で取り押さえられた。あっという間の出来事に清原は頭が真っ白になり、反抗することすらできなかった。数日後、彼らは日本に送還され、成田空港に到着した。

車内で清原は窓の外を見つめながら、これまでの「ビジネス」を思い返していた。手口は巧妙で、追及を逃れる術も知っていたはずなのに、結局はここまでたどり着いてしまった。彼が数々の高齢者から搾取した金は、今や何の価値も感じられなかった。

彼は深く息を吐き、やがて運命を受け入れる覚悟を決めた。









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

ぽっちゃりOLが幼馴染みにマッサージと称してエロいことをされる話

よしゆき
恋愛
純粋にマッサージをしてくれていると思っているぽっちゃりOLが、下心しかない幼馴染みにマッサージをしてもらう話。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

始業式で大胆なパンチラを披露する同級生

サドラ
大衆娯楽
今日から高校二年生!…なのだが、「僕」の視界に新しいクラスメイト、「石田さん」の美し過ぎる太ももが入ってきて…

人違いで同級生の女子にカンチョーしちゃった男の子の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...