お金がない

無職の男と不正な朝食券

『無職の男と不正な朝食券』

札幌のススキノのホテル。早朝の静けさを破ったのは、無職の24歳の男、田中誠（仮名）だった。彼は神奈川県横浜市からわざわざ札幌にやってきたが、宿泊する予定もなく、ただ「朝食ビュッフェを食べるため」にホテルに足を運んだ。目的は明確だ。3000円のビュッフェを無料で食べること。だが、その裏には深い欲望と計算があった。

田中は元々、詐欺的な手口を使うことに慣れていた。少しの時間とちょっとした知恵を使えば、思い通りに物事を進められると思っていた。今回は、ホテルで配布される「朝食券」を入手し、それを使って無料で朝食を取るという計画だった。

彼は数日前からそのホテルの情報をリサーチし、朝食ビュッフェが無料または安価で提供されている時間帯を把握していた。しかし、彼がどのようにして朝食券を手に入れたのかは、今でも明確ではなかった。ホテルのスタッフの目をかいくぐり、他の宿泊客の朝食券を盗む手段もあったし、いくつかの裏道を使って入手した可能性もあった。

16日午前8時半、田中はホテルに足を踏み入れた。ススキノの繁華街にあるそのホテルは、観光客や出張で訪れるビジネスマンで賑わう場所だ。朝食ビュッフェは和洋折衷の品揃えで評判だった。彼は何食わぬ顔で、朝食会場に向かい、受け取った朝食券を受付のスタッフに渡した。スタッフは見慣れない顔に少しの疑念を抱いたが、何も言わずに券を受け取り、田中を食事のテーブルに案内した。

田中はその場で、周りの客と同じように食事を楽しみ始めた。ふわっと焼けたパン、色とりどりのサラダ、熱々のスープ、そして目の前には食べ放題のメインディッシュが広がった。彼は満足そうに皿を取っては料理を盛り付け、できるだけ多くの種類を食べようと試みた。しばらくして、彼の中で得意げな気持ちが膨らんできた。

「これでいい。これで満足だ。」田中は心の中で思っていた。

だが、その幸福も長くは続かなかった。ホテルの従業員、佐藤（仮名）は、見慣れない客が朝食ビュッフェを楽しんでいることに気がついた。佐藤はその男が宿泊客でないことを直感的に感じた。何より、普段の宿泊客とは違う振る舞いや、少しばかり堂々としすぎている様子が気になった。

「もしかして、こいつは…？」佐藤は疑念を抱きながらも、他のスタッフに確認したが、彼の名前は登録されていなかった。佐藤は慎重に近づき、田中に声をかけた。

「すみません、お客様、宿泊されているお部屋番号をお伺いできますか？」と、やや硬い口調で言った。

田中は驚いた様子を見せず、穏やかに答えた。「ああ、ちょっと今日は急に来たもので…。宿泊客ではありませんが、知り合いがここに泊まっているんです。」

その答えを聞いて、佐藤はさらに疑念を強めた。知り合いが泊まっている？そんな説明では納得できない。佐藤はすぐに支配人に報告し、その後、支配人が「朝食を勝手に食べている男を確保している」と警察に通報した。

警察が到着すると、田中は冷静を装っていたが、既に逃げ場はなかった。警察官が彼を取り押さえ、状況を説明したところ、田中は不正に朝食券を手に入れていたことを認めた。

「私がしたことに間違いありません。」田中は無感情に言い放った。警察は彼を逮捕し、警察署へ連行した。

その後の調べで、田中がどのようにして朝食券を手に入れたのかが明らかになった。彼は、ある企業の社員が誤って忘れた朝食券を拾ったのだ。数日前にホテルに立ち寄り、出入りの際に見かけたその社員のバッグから、無造作に券を取り出していた。ホテルの従業員が気づかないうちに彼の計画は実行に移され、田中はその券を使って無料の朝食を得たのだった。

警察は田中の過去の行動にも目をつけ、彼が他にも似たような詐欺行為を行っていた可能性があると見て、さらなる捜査を進めた。

田中は、その日のことを振り返ることはなかった。ただ、彼の行動が少しでも他人に迷惑をかけ、結果として逮捕されたことを考える暇もなく、彼は再び自分の罪と向き合わせられることになった。

その後、田中は裁判で懲役刑を言い渡され、社会に対する不正行為に対する厳しい警鐘を鳴らすこととなった。