お金がない

詐欺事件のフィクサー

「詐欺事件のフィクサー」

都内の高層ビルが立ち並ぶ繁華街に、知る人ぞ知る男がいた。その男の名は黒澤慎一。表向きは法律事務所の弁護士として働き、普通の仕事をしているように見えるが、その裏にはひとつの恐ろしい顔が隠れていた。彼は、「フィクサー」として名を馳せていた。

フィクサーとは、問題を解決する者のことを指すが、黒澤にとってそれは言葉通りの意味で使われることはなかった。彼が扱う問題は、しばしば法律の範疇を超え、常識外の世界に踏み込むものだった。違法な手段を使って、クライアントが抱える面倒ごとを片付けるのが、彼の仕事だった。

その日の朝、黒澤はいつものように事務所で仕事をしていた。彼の手元には一通の封筒が届いていた。差出人は「新城産業株式会社」の代表、新城健司からだった。黒澤はその封筒を開け、中身を確認する。そこには一枚の写真と、一通の手紙が入っていた。

手紙にはこう書かれていた。

『黒澤さん、お願いがあります。私の会社の財務担当が、顧客の信頼を裏切り、巨額の詐欺を働いています。証拠は既に押さえており、これ以上事を大きくしたくない。私に助けをください。これ以上の騒ぎを防ぐために、誰かに示しをつける必要があります。』

黒澤は手紙を読み終えると、写真を見つめた。そこには新城産業の社員である松岡聡が映っていた。松岡は、信頼されるべき立場の人物だった。しかし、写真の中で彼の手に握られている書類から、何か不正が行われていることは明白だった。

黒澤はしばらくその写真を見つめた後、ゆっくりと席を立ち、部屋の片隅に置かれた書類棚から名刺を一枚取り出した。その名刺には、「黒澤慎一 – 法律事務所」と書かれている。しかし、これが彼の表の顔に過ぎないことを、誰も知らなかった。

数日後、黒澤は松岡聡の事務所を訪れた。松岡は一見普通のビジネスマンの顔をしていたが、どこか焦りが見え隠れしていた。

「黒澤先生、急に来られて驚きましたが…何か？」
松岡は冷静を装っていたが、目を合わせることなく言った。その態度から、黒澤はすぐに彼が事の重大さを理解していることを察した。

「松岡さん、あなたが関わっている詐欺事件についてだ。」
黒澤の声は低く、鋭いものだった。松岡の顔色が変わり、冷や汗がにじんだ。黒澤は続けた。「私は、あなたがどれだけ深く関わっているかは知らないが、事実を隠すことはできない。」

松岡は一瞬、口を開くことができなかったが、やがて苦しそうに顔を歪めた。「先生、頼みます。誰にも知られたくないんです。私がやったことは…もう後戻りできません。」
黒澤は松岡をじっと見つめた。彼の目の奥には、すでに何かを決意した冷徹さがあった。

「あなたがしてしまったことは取り返しがつかない。しかし、今からなら…まだ少しは助かる方法がある。」
黒澤はその言葉を、少しだけ期待を込めて伝えた。松岡はすがるように彼を見つめる。「何でもします…助けてください。」

「ただし、あなたがやらなければならないことは、もっと汚い手段だ。」
黒澤は冷たく言った。そして、次に放った言葉が、松岡を完全に追い詰めた。

「お前が犯した罪を暴露することで、新城産業は壊滅的なダメージを受けるだろう。だが、もし君が私の言う通りに動けば、全ては無かったことになる。新城健司が望む形で、解決する方法を教えてやろう。」

松岡は震えた。黒澤の言葉には、計画的な冷酷さが込められていた。それでも、彼には選択肢がなかった。

「わかりました。どうすれば…？」
黒澤は一呼吸おいてから、続けた。「私があなたの代わりに、証拠を消す。だが、消すだけでは終わらない。新城健司に対する忠誠を見せなければ、君自身も危険だ。」
松岡は頭を垂れ、深く頷いた。

黒澤はその後、松岡の助けを借りて証拠を隠滅し、さらに新城産業に有利な証言を仕向けた。そして、松岡はその後も新城産業に忠実に働き続けることを誓わせた。

数ヶ月後、事件は表に出ることなく静かに片付けられた。しかし、黒澤にとってそれはただの一つの仕事に過ぎなかった。彼の手のひらで、様々な人々の運命が転がっていた。

「この世界で正義を振りかざしても、誰も守れない。結局は、勝者だけが正義を語る。」
黒澤はそう呟き、事務所の椅子に深く座った。彼の目の奥には、既に次の仕事が見えていた。

フィクサー――それが彼の生きる道だった。