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首飾り事件

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『首飾り事件』

1785年のフランス。ヴェルサイユ宮殿の華やかさの影で、一つの陰謀が密かに進行していた。舞台はパリ、そしてその中でも上流階級の人々が集う社交場。中心に立っているのは、名門バロア家の末裔でありながら、財産を失い、世間の好奇の目からも疎まれていた女性、ジャンヌ・ド・ラ・モット。彼女は生き延びるために、ある大胆な計画を思いつく。それは、フランス王妃マリー・アントワネットの名を借りて、巨大なダイヤモンドの首飾りを手に入れるというものだった。

この首飾りは、フランスの宝飾師ボームとバセングが、ルイ15世の愛人であるデュ・バリー夫人のために作成したもので、膨大な費用がかかった。しかし、国王の死後、デュ・バリー夫人に渡ることはなく、残された首飾りは宝飾師たちのもとに戻されることとなった。ボームとバセングはなんとかしてこれを売り払おうとするが、あまりに高価で誰も手を出さなかった。

ジャンヌは、この宝飾師たちの困惑を知り、ここにチャンスを見出した。彼女は、当時宮廷内で影響力を持ちたがっていたロアン大司教に接触する。ロアンはかつてマリー・アントワネットの信頼を得ようとして失敗した過去があり、どうにかして再び彼女の寵愛を得たいと願っていた。ジャンヌは、ロアンのこの野望を巧みに利用したのである。

「王妃様は、実はあの首飾りを密かに望んでおられます。ですが、直接購入を望まない立場であるため、貴方のような信頼のおける方に頼みたいと考えているのです」

ジャンヌの言葉に、ロアンはすぐに信じ込んでしまった。彼女が王妃の密使として活動していると信じ込んでいた彼は、心から王妃への贈り物が叶えば、彼女の心を掴むことができると確信した。

ジャンヌはさらに、王妃に似せた手紙や書類を偽造し、ロアンの信念をますます固めていく。やがて、ジャンヌは一人の偽者を用意し、マリー・アントワネットの影武者を演じさせた。その偽りの場面で、ロアンは彼女に向かって首飾りの件を再度確認し、彼女の承諾を得たと信じてしまった。

数日後、ロアンは王妃の代理として、ボームとバセングに巨額の首飾りを購入する契約を交わした。しかし、首飾りがジャンヌのもとに届くと、彼女はこれを売りさばき、贅沢にふけった。真実が明るみに出るまでにはそう長くはかからなかったが、ジャンヌは得意げに富と自由を手にしたのだ。

やがて、首飾りが王妃のもとに届かないという異変に気付いたボームとバセングは、真相を確かめようとし、事件は宮廷中を揺るがすスキャンダルへと発展する。ロアン大司教は、最終的に王妃を侮辱した者として裁判にかけられ、ジャンヌも共に捕らえられることになった。

マリー・アントワネットはこの詐欺事件に関与していないことが証明されたものの、宮廷内の汚職や贅沢な生活が国民の怒りを煽り、やがて彼女がフランス革命の象徴としての不幸な運命を辿る一因となったのは、皮肉な結果であった。

ジャンヌ・ド・ラ・モットが織りなしたこの巧妙な詐欺は、マリー・アントワネットに対する偏見と不信感を世に広め、宮廷が虚栄と偽善に満ちているという印象を国民に刻み込むこととなった。






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