お金がない

画面の向こう側

「画面の向こう側」

石垣市のとある午後、50代の男性、和也は自宅のパソコンでメールのチェックをしていた。突然、画面が暗くなり、赤い文字で「ウイルス感染」と表示された。心臓が跳ね上がる。和也はパソコンを頻繁に使うわけではなかったが、今の生活においてインターネット接続が必須であることは理解していた。

「ウイルス感染の疑いがあります。速やかに以下の番号に連絡してください。」不安に駆られた和也は、迷うことなく画面に表示された番号に電話をかけた。

電話口に出たのは落ち着いた男性の声だった。「はい、こちらテックサポートの中村です。お困りの件についてお話を伺います。」名乗るその「中村」は、和也に実在のパソコン関連会社の社員だと説明し、ウイルス対策の重要性について説明を始めた。

「和也さん、現在のお使いのパソコンは非常に危険な状態です。このままだと個人情報が流出する恐れがあります。」中村の声は、和也の心を不安から緊張へと導いた。「幸い、対策方法があります。ウイルス対策ソフトを即座にインストールすれば問題ありません。そして、費用については一時的にアップルギフトカードでのお支払いが必要です。」

和也は、少し疑問に感じつつも、「全額返金」という中村の保証に背中を押され、コンビニへと足を運んだ。彼は指示通りに、何度も店舗を巡ってアップルギフトカードを購入し、その利用権コードを中村に伝えた。

カードを全て渡し終えた頃、中村は和也に電話を切る前に言った。「これでお手続きは完了しました。お疲れ様です。明日には全額が返金される予定ですので、またご連絡をお待ちください。」だが、翌日を迎えても、返金の連絡はこなかった。

数日後、不安を覚えた和也は最寄りの警察署へ足を運んだ。そこで、担当の警察官に事情を説明すると、その表情が一瞬険しく変わった。「残念ですが、それは特殊詐欺の手口です。私たちも同様のケースを複数把握しています。」

警察官からの説明を聞き、和也の心は沈んだ。どうして、あんなにも親切そうに説明してくれた中村が詐欺師だったのだろうか。何度も見直したメールには、彼の不安をよそに、「ウイルス感染」の文字が今も表示されている。

その後、警察の捜査によってこの詐欺グループの一部が逮捕されるまでには長い時間がかかった。だが和也の被害額は戻ることなく、彼の心の中には悔しさと虚しさが残った。自分の情報が画面の向こうで何者かに利用されたという現実が、彼にとっては大きな傷となったのだ。